『ケルトの民の後を追い』
2008年 11月 04日
アムステルダム。
晴天、北の風。
戻ってみると、クライドはハーフェズと険悪な表情で向かい合っていた。
どうやら先ほどの続きをまだやっていたらしい。
少々呆れつつ、仕立屋の言葉を伝えると、クライドは顔色を変えた。
クライド>ええ!? お蔵入りですって…!? あ~私がまごまごしているからこんなことに…、どうしたらいいでしょう?
そう言って頭を抱えたが、困っているのは私も同じ事だ。
何かいい手はないかと尋ねると、クライドはしばらく考えてから口を開いた。
クライド>古代豪族の末裔か…。そうだ! この街には有名な4人のお嬢さんがいるんです。どの方も街の有力者ですから、古代の豪族と関係があるかもしれませんね。4人のお嬢さん方に聞いて確かめてきてくれませんか?
いい話である。
やる気が出てきた。
私は服の襟を直しながら、そのお嬢さんはどこにいるんだ、と尋ねると、クライドはおそらく噴水の辺りではないかと、と言う。
目をやると……いた。
着飾った若い女性が噴水の周りで話し込んでいる。
俺に任せろ、と私は言った。
ロクサーヌは女性達の方を見て、何となく気配がきな臭いですが、大丈夫ですか、と不安そうに言う。
私は渋く笑い返し、見ていろ…悩殺だ、そう言い放つと、大股に女性達の方に歩き出した。
頑張ってこい、と言うハーフェズの声が背中を押す。
ヒデエ状況だ、にべもない、と私は冷や汗を拭きつつ報告した。
瞬殺ですね、とロクサーヌが言う。
あの状況じゃどうしようもねぇだろうが、と私は言い返したが、気の毒なものを見る笑顔で切り返された。
クライドとハーフェズは、ともかく、ケルト系の住民から情報を得ようと相談を始めた。
私はもう一度、あの状況じゃ仕方なかったんだよ、と叫んだ。
誰も、聞いていなかった。
………結局、調査の結果、
問題のアクセサリーが、いわゆるトルクだということが判明した。
トルク…ケルトのアクセサリーで前面が開く形のネックレスが多い…時にはブレスレットのこともあるが…。
これは、何度か発掘したことがある代物だ。
だが……今から掘り出すには少々時間が足りないし、大体、この寒風吹きすさぶ中、ボイン遺跡あたりでツルハシを振るうのはぞっとしない話だ。
ロクサーヌが私の心を読んだかのように、じろっとこっちを見る。
私は思わず目を逸らし、何とか、トルクを持ってるやつを探し出して、借りられるように手配してみないか、と提案した。
ロクサーヌは渋々、頷いた。
そこからが大変だった。
アムステルダム中を探し回った結果、レニ、と言う少女がケルトの豪族の血を引いていることが分かったのだが、
話を聞くのに非常に緊張した。
なかなか可愛らしい子で、お嬢さん、お一人ですか……そう言いかけたが、おじょ、まで言ったところで飲み込んだ。
後ろで、ヒステリーを起こしかけたロクサーヌがじっとこちらの様子を伺っている。
見えないところからじっと視線を投げかけられるのは、非常に精神に堪えるものだ…。
だが、話を聞くこと暫し、悪いことに、彼女もトルクを持ってはい無いことが分かった。
彼女の親族が持っていたらしいという話は聞くことは出来たが、誰だったのかは覚えていないということだ。
さらにダメ押しで、
レニ>でも確か、そのトルクはとっても大事なものだと言っていましたよ…一族が代々、肌身離さず身に着けて守っていると…もしトルクを見つけたとして、果たして貸してくれるでしょうか?
小首をかしげつつ、そう言われる。
ハーフェズが、ハハハ、もっともだ、と無遠慮な笑い声を上げたが、ロクサーヌに一睨みされて瞬く間に黙った。
結局、収穫もなくクライドの所に戻った我々に、
クライド>ケルトの仮装は惜しいですが、諦めるしかないようです…。色々とお世話になりました。ありがとうございます。
無情な言葉が突き刺さる。
…ところが、クライドが
クライド>そういえば、まだハロウィンの仮装をお持ちじゃないんですって?お礼にこれを差し上げましょう!
そう言いだした。
どうやら、仮装の衣装を暮れるらしい。
ロクサーヌの目が輝く。
私はほっと一息ついた。
何とかこれで、南に戻れそうだ。
だが、我々はクライドの差し出したものを見て、凍り付いた。
港に続く運河沿いの道を、私とハーフェズは肩を並べ、無言で歩いた。
……背後のロクサーヌの気配が、大変嫌な感じだ。
ヤバイかな、と私は小声で聞いた。
かなりな、とハーフェズがやはり小声で答える。
北風がまた一度、吹き抜ける。
どういう事ですか?
ぽつりとロクサーヌが言った。
私達はギクリとして思わず足を止め、振り返る。
これだけ苦労して、靴一足!
振り返った私達の顔目掛け、魔法使いの靴が、まるで魔法のように飛んだ。
これじゃ、仮装でも何でもないです…そう言って近寄ってくるロクサーヌに、私達は顔を押さえてしゃがみ込んだまま、ごもっとも、と答え、ジリジリ後退する。
ロクサーヌはなおも、トルクくらい、掘ってくればいいじゃないですか、あそこでぐずぐずしてたのがいけなかったんです!と金切り声を上げた。
いつものヒステリーではあるが、目は本気だった。
このままでは冗談抜きで冬のボイン遺跡である。
私は慌てて、まだロンドンの司祭に報告もしてないだろう、と懐柔に掛かった。
ハーフェズが、そうだ、彼に頼めば、衣装の一枚や二枚、すぐにどうにかしてくれる、と後押しする。
ロクサーヌが、ぴたりと足を止め、絶対ですからね、うまく行かなかったら、後でひどいですよ、と三白眼で言った。
押し殺した声が逆に危険な感じだ。
私とハーフェズは凄い勢いで頷いた。
根拠はないが、ともかくそうするしかなかった。
<ルール・嘘も方便>
晴天、北の風。
戻ってみると、クライドはハーフェズと険悪な表情で向かい合っていた。
どうやら先ほどの続きをまだやっていたらしい。
少々呆れつつ、仕立屋の言葉を伝えると、クライドは顔色を変えた。
クライド>ええ!? お蔵入りですって…!? あ~私がまごまごしているからこんなことに…、どうしたらいいでしょう?
そう言って頭を抱えたが、困っているのは私も同じ事だ。
何かいい手はないかと尋ねると、クライドはしばらく考えてから口を開いた。
クライド>古代豪族の末裔か…。そうだ! この街には有名な4人のお嬢さんがいるんです。どの方も街の有力者ですから、古代の豪族と関係があるかもしれませんね。4人のお嬢さん方に聞いて確かめてきてくれませんか?
いい話である。
やる気が出てきた。
私は服の襟を直しながら、そのお嬢さんはどこにいるんだ、と尋ねると、クライドはおそらく噴水の辺りではないかと、と言う。
目をやると……いた。
着飾った若い女性が噴水の周りで話し込んでいる。
俺に任せろ、と私は言った。
ロクサーヌは女性達の方を見て、何となく気配がきな臭いですが、大丈夫ですか、と不安そうに言う。
私は渋く笑い返し、見ていろ…悩殺だ、そう言い放つと、大股に女性達の方に歩き出した。
頑張ってこい、と言うハーフェズの声が背中を押す。
ヒデエ状況だ、にべもない、と私は冷や汗を拭きつつ報告した。
瞬殺ですね、とロクサーヌが言う。
あの状況じゃどうしようもねぇだろうが、と私は言い返したが、気の毒なものを見る笑顔で切り返された。
クライドとハーフェズは、ともかく、ケルト系の住民から情報を得ようと相談を始めた。
私はもう一度、あの状況じゃ仕方なかったんだよ、と叫んだ。
誰も、聞いていなかった。
………結局、調査の結果、
問題のアクセサリーが、いわゆるトルクだということが判明した。
トルク…ケルトのアクセサリーで前面が開く形のネックレスが多い…時にはブレスレットのこともあるが…。
これは、何度か発掘したことがある代物だ。
だが……今から掘り出すには少々時間が足りないし、大体、この寒風吹きすさぶ中、ボイン遺跡あたりでツルハシを振るうのはぞっとしない話だ。
ロクサーヌが私の心を読んだかのように、じろっとこっちを見る。
私は思わず目を逸らし、何とか、トルクを持ってるやつを探し出して、借りられるように手配してみないか、と提案した。
ロクサーヌは渋々、頷いた。
そこからが大変だった。
アムステルダム中を探し回った結果、レニ、と言う少女がケルトの豪族の血を引いていることが分かったのだが、
話を聞くのに非常に緊張した。
なかなか可愛らしい子で、お嬢さん、お一人ですか……そう言いかけたが、おじょ、まで言ったところで飲み込んだ。
後ろで、ヒステリーを起こしかけたロクサーヌがじっとこちらの様子を伺っている。
見えないところからじっと視線を投げかけられるのは、非常に精神に堪えるものだ…。
だが、話を聞くこと暫し、悪いことに、彼女もトルクを持ってはい無いことが分かった。
彼女の親族が持っていたらしいという話は聞くことは出来たが、誰だったのかは覚えていないということだ。
さらにダメ押しで、
レニ>でも確か、そのトルクはとっても大事なものだと言っていましたよ…一族が代々、肌身離さず身に着けて守っていると…もしトルクを見つけたとして、果たして貸してくれるでしょうか?
小首をかしげつつ、そう言われる。
ハーフェズが、ハハハ、もっともだ、と無遠慮な笑い声を上げたが、ロクサーヌに一睨みされて瞬く間に黙った。
結局、収穫もなくクライドの所に戻った我々に、
クライド>ケルトの仮装は惜しいですが、諦めるしかないようです…。色々とお世話になりました。ありがとうございます。
無情な言葉が突き刺さる。
…ところが、クライドが
クライド>そういえば、まだハロウィンの仮装をお持ちじゃないんですって?お礼にこれを差し上げましょう!
そう言いだした。
どうやら、仮装の衣装を暮れるらしい。
ロクサーヌの目が輝く。
私はほっと一息ついた。
何とかこれで、南に戻れそうだ。
だが、我々はクライドの差し出したものを見て、凍り付いた。
港に続く運河沿いの道を、私とハーフェズは肩を並べ、無言で歩いた。
……背後のロクサーヌの気配が、大変嫌な感じだ。
ヤバイかな、と私は小声で聞いた。
かなりな、とハーフェズがやはり小声で答える。
北風がまた一度、吹き抜ける。
どういう事ですか?
ぽつりとロクサーヌが言った。
私達はギクリとして思わず足を止め、振り返る。
これだけ苦労して、靴一足!
振り返った私達の顔目掛け、魔法使いの靴が、まるで魔法のように飛んだ。
これじゃ、仮装でも何でもないです…そう言って近寄ってくるロクサーヌに、私達は顔を押さえてしゃがみ込んだまま、ごもっとも、と答え、ジリジリ後退する。
ロクサーヌはなおも、トルクくらい、掘ってくればいいじゃないですか、あそこでぐずぐずしてたのがいけなかったんです!と金切り声を上げた。
いつものヒステリーではあるが、目は本気だった。
このままでは冗談抜きで冬のボイン遺跡である。
私は慌てて、まだロンドンの司祭に報告もしてないだろう、と懐柔に掛かった。
ハーフェズが、そうだ、彼に頼めば、衣装の一枚や二枚、すぐにどうにかしてくれる、と後押しする。
ロクサーヌが、ぴたりと足を止め、絶対ですからね、うまく行かなかったら、後でひどいですよ、と三白眼で言った。
押し殺した声が逆に危険な感じだ。
私とハーフェズは凄い勢いで頷いた。
根拠はないが、ともかくそうするしかなかった。
<ルール・嘘も方便>
by Nijyuurou
| 2008-11-04 23:46
| 『死者の祭りに日が暮れて』