大航海時代online Boreasサーバー  マルコの航海日誌


by Nijyuurou
カレンダー
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31

『憧憬は王女の影に』

 カイロ。
 
 曇天、西の風。
c0124516_01518.jpg

 休憩所の親父は、少々小バカにした顔で私を見ると、それは、女子供向けの昔話でしょう、といった。
 私は背後にいるミミー嬢とスコール君を振り返り、何か問題でも、と聞き返す。
 親父は生ぬるい顔でへぇへぇと答え、それでしたら、まあ、街の女子衆にでも聞いてみることですな、と、ひらひら手を振った。

 何を言ってるんですか、と言葉のわからないスコール君が尋ねてくる。

 私はいやな顔をして、君のことがかわいいといってるんだ、と答えた。

 と、いうわけで、市場辺りに繰り出して、道行く女性に声をかけてみると、
c0124516_0152936.jpg

 という話を聞くことができた。
 聞いたことの無い伝説である。
 彼女からはもう少し話を聞いてみたかったのだが、そこまで言うと彼女は表情を硬くし、足早に歩み去っていたった。

 さすがに、敬虔なイスラム教徒の港だ。
 しかし、私がそういうと、ちょっと顔が近すぎたんじゃないですか、とミミー嬢が言う。





 

 次に声をかけたのは
c0124516_0162620.jpg

 だが、この言葉が引っかかったのか、ミミー嬢に、
c0124516_0164636.jpg

 と叱られる。
 私は誤りはしたが、考えてみればおばさんをお嬢さんと呼んだり、昔のお嬢さんとか呼ぶ方が失礼な気もする・・・。
c0124516_017948.jpg

 ともかく、このおば・・・・いや、この女性曰く、アレキサンドリアの学者がこういう伝説には詳しいということで、
c0124516_0172742.jpg

 アレキサンドリアへと向かい、問題の学者に話を聞く。
 
 彼は我々の話を聞くと、おもしろい調査をしていますね、と笑い、そして、少々表情を引き締めて、これは、元々伝説というより、昔話に近い話だったのですが、つい最近、史実なのではないかという疑いが出てきたのですよ、と言った。
 伝説が史実になったのですか、とスコール君が不思議そうに言う。

 学者は、こう言ったときの学者がみなそうであるように、澄ました、それでいて少し得意そうな表情で、古いパピルスを取り出してきてくると、私たちの前に広げ、
c0124516_0174347.jpg

 と説明した。

 なるほどな、と私はうなずき、別に変わった話ではないように思いますが・・とミミー嬢が首をひねる。
 
 この話のアメンホテプ4世というファラオは、つい最近まで知られていなかったんだよ、と私は彼女に言った。 

 
 アメンホテプ4世の別名はアクエンアテン。

 その名前は「アテン神に愛されるもの」を意味し、それまで多神教であったエジプトにおいて一神教の改革を行った。
 だが、それが災いして後に神官たちによって王名表から名を削られ、業績を闇に葬られた「消されたファラオ」となり、最近まで知られざる存在となっていた。

 と、言うのが、エジプトを専門にしている学者たちから聞いた話だ。
 
 問題の王女というのは、その娘にして王妃であったという。

 ロクサーヌが、娘にして王妃、というのはどういうことですか、と尋ねてくる。
 私は文字通りだ、と答えた。
 この時期のエジプトでは、親子や兄妹での結婚というのもさほど珍しいことではなかったらしい。
 そう説明すると、ロクサーヌはまたぞろヒスを起こして、汚らわしいとか何とかと怒鳴り始める。
 と、今度はハーッフェズが耳を押さえながら、2番目の夫については、ということは、3番目の夫についてはわかってるのか、と尋ねてきた。

 スコール君が眉根を寄せて、ちょっと待ってくださいよ、とパピルスに目を落とし、しばらくして、3番目の国王の名前も、無いですね、と肩を落とした。
 
 私はスコール君に、それじゃあ、その次はわかるか、と声をかけ、スコール君は再びパピルスを睨んで、ホルエムヘブという王ですね、と答え、さらに、彼はエジプト第19王朝の初代です、と付け加えた。
 
 つまり、エジプト第18王朝の最後の王達は歴史から名前を消されている、ということだ、と私はいい、ハーフェズが、なんとなくはわかるな、とうなずいた。

 要するに、大宗教改革を断行したアクエンアテンの巻き添えを食らったという訳だ。

 最近でも、ルターとかカルヴァンとか、プロテスタントと言われる連中とローマとの間での確執が絶えないが、人間は3000年前から懲りずに同じことを繰り返していると言うことだろう。

 まあ、その王女とやらも苦労しただろうな、とハーフェズが首を竦めてみせ、なんと言ったっけ、と首をかしげた。
 
 アンケセナーメンです、とミミー嬢がいい、大きな時代のうねりの中で、運命に翻弄された方なのでしょうね、とそっと瞑目した。



 だが、私はふと、疑問に思う。


 
 愛した夫の名は消えたのに、なぜ妻の名は残ったのだろうと。



 激動の時代のうねりの中、夫をおいて名を残したその女が、ただか弱いだけの女のはずがない。

 きっと何かある。

 私の頭の中で、そんな考えが渦を巻いたが、しかし、笑顔で、いい話ですね、と、しんみり語り合っているミミー譲とロクサーヌを見て、その考えを口に出すことは、はばかられた。

 
 この依頼はともかく、これで終わりだ。

 ミミー嬢とスコール君はさんざんお土産を買い込んだようで、集合時間に遅れてきたが、ともかく、アレキサンドリアを後にして、アテネへ。
c0124516_019570.jpg

 報告をすまして、皆で酒場へと繰り出した。
c0124516_0185233.jpg

 いずれにしても、金になる話じゃなかったな、とハーフェズがぼやき、ミミー嬢が聞きとがめて、感動的な話じゃないですか、お金よりずっと価値があります、と頬を膨らませる。
 ハーフェズはエジプトは財宝が魅力なんだ、と言い、一度でいいから、王家の玄室ってのを掘り当ててみたいもんだ、と遠い目をした。

 私とスコール君は同時に、それは魅力的だ、と言った。

 私は金になりそうな話だな、と言い、スコール君は学術的な価値は計り知れないでしょうね、と言う。
 ハーフェズは私に向かって、だろう、と笑う。

 この時はまだ、ハーフェズも単なる憧憬でこんなことを言ったのだと思う。

 
 だが、これは単なる憧憬では済まない話になったのだ。

 
 次の話はこうだ、

 伝説の依頼で得た報酬で我々はしばらくアテネの休日を楽しんでいた。

 ハーフェズはギリシャワインを飲みふけり、ロクサーヌと言えば古い神殿や彫像謎を眺めて過ごしている。
 私はと言えば、酒場の二階の宿屋のベッドに転がり、ただれた気持ちで『ユートピア』などを読みふけっていたところ、ノックの音がした。
 ドアを開けてみると、看板娘のミュリネーで、私は手っきり、ああ、そういうことか、と有頂天になって、彼女のほうに手を伸ばしたが、彼女は彼女で笑顔でその手を弾き飛ばし、私に客が来ている、とそう言った。

 私は最近こういうノリばかりだな、と言う疑念を抱えつつも、こんなところに客、というのもおかしいな、と思い、酒場へと向かう。

 客、というのはギルドの斡旋人で、なんと、ミミー嬢とスコール君も呼び出しを受けていた。
 
 顔を見合わせる私たち。

 斡旋人がおもむろに語り始める。


c0124516_0192148.jpg

[PR]
by Nijyuurou | 2009-12-09 00:19 | 『愛は砂の彼方に』