大航海時代online Boreasサーバー  マルコの航海日誌


by Nijyuurou
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『虜囚は石壁の中に』

 アレキサンドリアのブタ箱。
 
 湿気多し、臭い悪し。



 目の前で星が舞った。 

 また、私の頭が石壁に叩きつけられる。

 汚れの染みついた石の壁。 
 すえた臭い。
 薄汚い藁のベッド。

 なるほど、理想的なブタ箱というやつだ。


 私たちを取り囲んだ兵士から告げられたのは、なんと我々が「盗掘団」であるとの罪状だった。

 私は持てる限りの語彙を駆使して、何とか誤解を解こうとしたのだが、説得の甲斐は無く、案内されたのが、このブタ箱、と言うわけである。

 そして、今、私の頭は幾度となく薄汚れた石の壁にキスをしている。

 
 私は心の中で呟いた。

 OK、マルコお前はまだへこたれちゃいない。
 これだけ打ち据えられても、まだ心は折れていない。
 体だって頑健だ。





 私は、私の襟首をつかんで激しく前後に揺さぶるロクサーヌに、これは冤罪だ話せばわかる、と毅然として言い放った。

 が。
 
 ロクサーヌの額の青筋はますます太くなり、まるっきり冤罪って訳じゃないじゃないですか、と大声で叫ぶ。
 私はにっと笑い返し、まだ未遂だった、とうそぶいた。
 ロクサーヌは、そういう問題じゃありません、と金切り声を上げ、再び私の襟首を揺さぶる。
 私の後頭部が再び石壁にキスをし、私の喉から、グエ、と言う呻きが漏れ
た。
 ハーフェズが、あーあ、またヒスだな、とのんびりといい、藁のベッドで寝返りを打つ。
 スコール君はさきほどから、牢の向こうに、おーいおーい、と声をかけ続けている。 
 もちろん返事はない。

 ロクサーヌはしばらくすると私の頭をぶつけ飽きたのか、襟首を揺するのをやめ、肩を上下させて息を吐く。
 助かった。
 私も息を吐く。
 かと思うと、今度はロクサーヌは上目使いに私を睨め付けると、ともかく船長、責任をとってくださいね、と語気鋭く、脅すように言った。
 私は思わず、この状況じゃ色気がないな、と軽口を叩き、ロクサーヌの額には再び太い青筋が浮かんで再び襟首にかかった手に力が入る。

 しくじった。

 私は後悔した。

 迫り来る石壁に備え、奥歯をかみしめる。

 その瞬間、牢内に、うあーん、と言う大きな泣き声が響き渡った。
 これはミミー嬢である。
 もう、大混乱だ。

 ミミー嬢は、私悪い子じゃないのに何も悪い子としてないのに朝起きたらきちんと歯も磨くしご飯食べるときも寝るときもきちんとお祈りしてるし好き嫌いせずに何でも食べてるし日曜日はちゃんと教会に行ってるのに、とベソをかき、ロクサーヌが慌てて駆け寄って彼女の肩を抱き、背中を撫でて、大丈夫よ、と慰める。
 ミミー嬢は、ロクサーヌに差し出されたハンカチで、チンと鼻をかんで、これからどうなっちゃうの、と濡れた目をこっちに向けてくる。
 
 私はちょっと考え、まあ、男はガレー船用の奴隷だな、と答える。
 スコール君が両手で頭を抱え、ちょっと勘弁してください、と、呻いた。
 ハーフェズが女はまあ、どこかのハーレムに売り飛ばされるってのが相場かな、と言う。
 ミミー嬢が視点の定まらない目で、ハーレムってお姫様だよね、と言って、うつろな笑い声を上げる。
 ロクサーヌはといえば、再び私の襟首をつかむと、今度は顔をくしゃくしゃにして、そんなの嫌です、といい、ぽろっと涙をこぼした。
 やばい、と私は思ったが、避けようがなかった。
 果たして、ロクサーヌはそんなのいやああああびええええええ、とすごい声で泣き出して、私の襟首を、今度は締め上げる。
  
 意識が遠くなり、視界が暗くなった。

 死ぬ。

 そう確信したとき、硬質な音とともに、牢の扉が開き、静かにしないか、と言う怒鳴り声が響いた。

 入ってきたのは、私たちをここに連れてきた衛兵だった。

 衛兵は一つ咳払いをすると、提督がお会いになる、着いてこい、と私たちに命じた。

 ロクサーヌの手がゆるむ。
 見ると、彼女は青白い殺気を目に宿して、衛兵を見ていた。
 私は慌てて彼女を手で制し、衛兵に、わかった、と答える。

 提督が会う、と言う話であれば、いきなりガレー船と言うことにはならないだろう。
 
 ともかく、おとなしく話を聞いた方が、得のようだ。
 
 
 ・・・我々が通されたのは、予想通りなかなか豪華な一室であった。
 立派なひげを蓄えた男が一人、こちらをおもしろそうに眺めている。
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 男は、君がマルコ君か、と私の方に首を向けてくる。

 私は、どうやらそうらしい、と答え、男の方に向かって、あんたはアレキサンドリア提督メフメト=シャールークだな、レパントで死んだと聞いたが、と言った。

 男・・・メフメトは苦笑いして、そう、君の国の戦艦に殺されかけた男さ、と言う。
 私は肩をすくめ、俺は国同士のいざこざには首を突っ込まない主義なんだ、といい、さらに、ヴェネチアとトルコの間には条約が締結されてるはずだ、無実のヴェネチア人を拘禁したとなると、あんたの立場も悪くなるだろう、と続けた。

 ・・・まあ、もっとも、トルコ側がヴェネチアとの条約を破ることなど、ざらではある、が。

 メフメトは、君は無罪ではなく盗掘団の一味の疑いのある男さ、と手を振り、第一、君は商人ギルドからは密輸商だの盗掘屋だのと、それらしい肩書きをもらっているだろう、と笑って見せた。
 私は肩をすくめて、今回に関しては無実だ、と反論する。

 メフメトは一つため息を吐いて、では、それを証明したまえ、と言った

 証明ですか、と、ロクサーヌが聞く。

 メフメトは頷いて、この地域は、古くから盗掘の被害に悩まされてきてね、今も我々は大盗賊団が古代の王墓の盗掘を狙っているという情報をつかみ、街でそういう動きを見せる者がいないかどうか、見張っていたのさ、と答える。

 そこで、引っかかったのが俺たちって訳だ、と、ハーフェズが頷いた。

 メフメトは、そうとも、と頷き、君たちだって、自分が怪しいことは嫌と言うほどわかるだろう、といい、そして、もうわかると思うだろうが、この大盗賊団のアジトを探し出してもらいたいのだよ、と言った。
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 私はため息を吐いた。
 
 俺たちに選択権はないという訳か、と言うと、メフメトはうれしそうに笑って、ガレーのオールが漕ぎたいかね、と聞いてくる。
 私は唇をゆがめて、ただ働きはしない主義なんだがな、と答えた。
 ロクサーヌが顔色を変え、肘で私をつついてくる。
 メフメトはおかしそうに笑って、もちろん、無実の証明ができたら、相応の報酬は払おう、と言った。
 もし依頼を果たさず逃げたら、と私は聞いた。
 メフメトは太い笑みを見せて、そのときは盗掘団の一味として、正式にヴェネチア政府に依頼して手配をさせてもらう、と言った。
 そしてさらにメフメトは、まあ、そうならないためにも、念のためにそこのお嬢さんに残ってもらおうかな、と、ミミー嬢を指さした。

 一瞬間を置いて、また、うわーん、と言う泣き声が響く。

 ミミー嬢は、泣きながら、私密輸商でも盗掘屋でもなくてただのパン屋だしそれにマルコさんとは一緒の商会にいるけど悪い仲間とかじゃないんです、と申し立てる。

 私は少々憤慨し、まるで俺がまるっきり悪者じゃないか、と呟いた。
 隣のスコール君が、まるっきりいい人でもないでしょう、とあきれ声で言う。
 メフメトは、苦り切った顔でミミー嬢を見ている。

 ややあって、ロクサーヌが、わ、わわ、わ、私が残ります、と言いだした。
 ロクサーヌは少し青い顔をして、ミミーさんは船長さんですし、今回は船長の巻き添えになったような感じですし、それに、私、船長はたぶん逃げたりせずに依頼を果たしてくれるような気がしますし、と、小さな声でメフメトに言う。 

 ・・・私のところだけ、『たぶん』とか、『気がする』などという少々不安の残る表現なのが気になった。

 ともかく、私は、メフメトにそれでいいか、と尋ねる。
 メフメトは、ああ、と頷いた。 
 私が、牢に入れまいね、と念を押すと、メフメトは、いい部屋を用意するとも、と言い、もちろん安全も保証する、と頷いた。
 
 私はロクサーヌの肩を叩き、と、いうことらしいから安心してケバブでもほおばっててくれ、と言った。
 
 ロクサーヌは、硬い表情で、それでも、まってます、と笑った。
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by Nijyuurou | 2010-01-12 00:59 | 『愛は砂の彼方に』