『ジョルジェとオーレリア』
2008年 09月 14日
9月13日、オポルト。
ポルトガル西海岸は今日もひどい風だ。
天気は悪くないのだが、海からの風は先日からどんどんひどくなり、今も索具を引きちぎらんばかりに吹荒れている。
これが物語ならば主人公の行く手を暗示して…とでも書くのだろうが、現実には冗談でもそんなことを口にしたくないものだ。
と、いうわけで、私は黙ったまま、仏頂面で、オポルトの埠頭を歩いていた。
祈祷師の話が確かならば、どうやら、先日の埠頭の老人が、今回の一件の鍵を握っている………らしい。
それで再びこうしてノコノコオポルトまで戻ってきたというわけだが……。
あの老人は、まだいるだろうか……。
こんなことになるなら、以前来た時にもっと突っ込んだ話をしておけばよかったんだ、と思われるかもしれないが、それは結果論というものだ。
後悔はしていない。
しかし、あの老人を見つけることが出来なければ、また調査は暗礁に乗り上げることになる。
それだけが不安である。
あの老人は先日とおなじように、埠頭の突端で海を見つめていた。
歩み寄って声を掛けた私を静かに見返して、
老人>ふむ、また来るだろうと思っていた…。……航海者さん、とある男女の悲しい話をしよう。立ってないで横に座るといい
私は、老人に促されるまま、その隣に腰掛けた。
老人が語り始めた。
老人>この街に生真面目で情熱的な男、ジョルジェという若き船長がいた………………
………それは、ありがちで、しかも少々気の滅入る話だった。
ジョルジェには美しいオーレリアという婚約者がいた。
しかし、ジョルジェが航海中に、オーレリアの姿を見た貴族が、彼女の美しい姿に心を奪われてしまい、彼女に結婚を申し込んだ。
悪いことに、オーレリアの父は、婚約中であることを口にせずに、結婚の申し出を受け入れ、オーレリアはついに強制的に式を挙げられてしまったのだという。
だが、彼女は貴族との結婚生活を避けていた。
ジョルジェを愛していたのだ。
それに腹を立てた貴族はオーレリアを牢獄に幽閉……オーレリアは、その後も貴族を拒み続け、パンも水も一切口にせず、自ら命を絶った……。
老人>ジョルジェは遠方の航海から帰国後に、オーレリアが貴族と結婚した事実を知る。最期までジョルジェを想い命を絶ったことも知らずに、幸せに貴族と暮らしているという街人の噂を信じてしまい我を失ってしまう。そして、終りのない航海へと旅立ってしまった…
私は黙り込んだ。
別に話に心を打たれたから、と言うわけではない。
ジョルジェと言う名前である。
……どこかで……しかもつい最近聞いた名前なのだ。
私はじっと海を見つめたまま、記憶を手繰る。
……記憶の中からその名前を引っ張り出した時、私はきっと、青い顔をしていたと思う。
一つ大きく深呼吸をして、ポケットに手を突っ込み、刻印入りの指輪を取り出す。
そして、爺さん、これに見覚えがないか、と老人の前に差し出した。
果たして、老人は顔色を変えた。
老人>なんと! その指輪をどうしてお前さんが持っているんだ?それは2人が婚約した記念日にジョルジェがオーレリアに贈った指輪…。オーレリアが幽閉される前に貴族に奪われてしまった物なんじゃよ…!
私は、ともかくそんなことじゃないかと思った、と老人に答えた。
ジョルジェ…あの悪夢の中で聞いた名前だ。
あのとき、俺の手を握って、指輪を……そう囁いたのは女だった。
おそらく、あれはオーレリア、だろう。
………ともかく、この指輪、クリスティナに渡さなくて良かった…。
老人>航海者さん、悪いんじゃが、祈祷師さんに相談してその指輪は本人に返してやってくれないかのぅ? 祈祷師さんの言うように、2人の魂がお互い一緒に眠りにつくことができないのはその指輪のせいかもしれん…
私の思考を遮って、老人が話しかけてくる。
私は、ああ、と頷いて、それから眉を寄せた。
本人?
もう死んでるのに?
老人にそう言うと、真剣な顔で頷かれた。
…どうやら、本気らしい。
私は、溜息とともに、分かった、という言葉をなんとか吐き出して、港の方へと歩き出した。
情けない顔をしていたと思う。
<ルール・人の運命は非科学的である>
ポルトガル西海岸は今日もひどい風だ。
天気は悪くないのだが、海からの風は先日からどんどんひどくなり、今も索具を引きちぎらんばかりに吹荒れている。
これが物語ならば主人公の行く手を暗示して…とでも書くのだろうが、現実には冗談でもそんなことを口にしたくないものだ。
と、いうわけで、私は黙ったまま、仏頂面で、オポルトの埠頭を歩いていた。
祈祷師の話が確かならば、どうやら、先日の埠頭の老人が、今回の一件の鍵を握っている………らしい。
それで再びこうしてノコノコオポルトまで戻ってきたというわけだが……。
あの老人は、まだいるだろうか……。
こんなことになるなら、以前来た時にもっと突っ込んだ話をしておけばよかったんだ、と思われるかもしれないが、それは結果論というものだ。
後悔はしていない。
しかし、あの老人を見つけることが出来なければ、また調査は暗礁に乗り上げることになる。
それだけが不安である。
あの老人は先日とおなじように、埠頭の突端で海を見つめていた。
歩み寄って声を掛けた私を静かに見返して、
老人>ふむ、また来るだろうと思っていた…。……航海者さん、とある男女の悲しい話をしよう。立ってないで横に座るといい
私は、老人に促されるまま、その隣に腰掛けた。
老人が語り始めた。
老人>この街に生真面目で情熱的な男、ジョルジェという若き船長がいた………………
………それは、ありがちで、しかも少々気の滅入る話だった。
ジョルジェには美しいオーレリアという婚約者がいた。
しかし、ジョルジェが航海中に、オーレリアの姿を見た貴族が、彼女の美しい姿に心を奪われてしまい、彼女に結婚を申し込んだ。
悪いことに、オーレリアの父は、婚約中であることを口にせずに、結婚の申し出を受け入れ、オーレリアはついに強制的に式を挙げられてしまったのだという。
だが、彼女は貴族との結婚生活を避けていた。
ジョルジェを愛していたのだ。
それに腹を立てた貴族はオーレリアを牢獄に幽閉……オーレリアは、その後も貴族を拒み続け、パンも水も一切口にせず、自ら命を絶った……。
老人>ジョルジェは遠方の航海から帰国後に、オーレリアが貴族と結婚した事実を知る。最期までジョルジェを想い命を絶ったことも知らずに、幸せに貴族と暮らしているという街人の噂を信じてしまい我を失ってしまう。そして、終りのない航海へと旅立ってしまった…
私は黙り込んだ。
別に話に心を打たれたから、と言うわけではない。
ジョルジェと言う名前である。
……どこかで……しかもつい最近聞いた名前なのだ。
私はじっと海を見つめたまま、記憶を手繰る。
……記憶の中からその名前を引っ張り出した時、私はきっと、青い顔をしていたと思う。
一つ大きく深呼吸をして、ポケットに手を突っ込み、刻印入りの指輪を取り出す。
そして、爺さん、これに見覚えがないか、と老人の前に差し出した。
果たして、老人は顔色を変えた。
老人>なんと! その指輪をどうしてお前さんが持っているんだ?それは2人が婚約した記念日にジョルジェがオーレリアに贈った指輪…。オーレリアが幽閉される前に貴族に奪われてしまった物なんじゃよ…!
私は、ともかくそんなことじゃないかと思った、と老人に答えた。
ジョルジェ…あの悪夢の中で聞いた名前だ。
あのとき、俺の手を握って、指輪を……そう囁いたのは女だった。
おそらく、あれはオーレリア、だろう。
………ともかく、この指輪、クリスティナに渡さなくて良かった…。
老人>航海者さん、悪いんじゃが、祈祷師さんに相談してその指輪は本人に返してやってくれないかのぅ? 祈祷師さんの言うように、2人の魂がお互い一緒に眠りにつくことができないのはその指輪のせいかもしれん…
私の思考を遮って、老人が話しかけてくる。
私は、ああ、と頷いて、それから眉を寄せた。
本人?
もう死んでるのに?
老人にそう言うと、真剣な顔で頷かれた。
…どうやら、本気らしい。
私は、溜息とともに、分かった、という言葉をなんとか吐き出して、港の方へと歩き出した。
情けない顔をしていたと思う。
<ルール・人の運命は非科学的である>
by Nijyuurou
| 2008-09-14 01:51
| 『アゾレスの亡霊』