大航海時代online Boreasサーバー  マルコの航海日誌


by Nijyuurou
カレンダー

<   2008年 09月 ( 17 )   > この月の画像一覧

『貴方が寝てる間に』

ジェノヴァ。曇天微風。

 ある日。

 いつものようにジェノヴァ交易所横で店を広げていた私は、連日の激務の疲れから、ふと激しい眠気を覚えた。

 ちょうど隣にいたハーフェズに店番を押しつけると、交易所の押し車の上に寝転がり、帽子を顔の上に乗せる。

 直ぐに睡魔が襲ってきた。

 …………………。

 しばらくして目を覚ますと、あたりはもうすっかり茜色で、夕日に照らされた交易所の樽が石畳の上に長く尾を引いていた。

 私は一つ欠伸をすると、ハーフェズに商品の売れ行きを尋ねる。
 ハーフェズはボチボチだな、といって金貨の入った袋をじゃらつかせ、私は小さく口笛を吹く。
 ちょうどロクサーヌがこちらに向かってくるのが見えた。
 こちらは先日のサルベージで壊れた船の修理の手配などを任せていたが、片手にバーベキューを持ち、弛緩した感じで歩いてくるところを見ると、作業は首尾良く終わったのだろう。
 私はロクサーヌの手にしたバーベキューを凝視し、ハーフェズにそろそろ飯にするか、と声を掛けた。
 ハーフェズは、そうするか、と短く答えて立ち上がり、ああ、と思いだしたような声を出した。

 私は、ハーフェズの方を見る。

 奴は視線を夕日の方に向けながら、こういった。
 
 お前が寝ている時に、お前の書いてる本を読んでるという娘さんが、お前を訪ねてきていたぞ。
c0124516_0434936.jpg

 何、と私は言った。

 お前がここで行商をしてるのを聞きつけたようだが……どことなく、ジゼルと言ったかな、南米のあの酒場娘に似た子だったが、とにかく、可愛らしい娘さんだった…とハーフェズは首を振る。
  
 じゃあ、何故起こさないんだ。

 奴はニンマリ笑った。

 俺は、お前が知素人娘に手を出すのは、人の道を外れた良くないことだと思う。

 それで?

 お前はリスボンに行った、と言って追い返した。

 
 その瞬間、私は目の前の外道の首を怪鳥音を上げつつ締め上げて、ハーフェズはニンマリ顔のまま首を絞められる。

 こんな所で何をしてるんですか、とロクサーヌのヒステリックな声が上がり、バーベキューの串が宙を飛んだ。

 
 …普通なら、ここでこの話は終わりになるのだが、ところが今日は終わりではない。


 数日後。
 
 セビリアの銀行で手続きをしていた時のこと。

 その日も相変わらず銀行はごった返していて、狭い窓口に多数の人間が群がる状態であった。
 体をねじり込むようにして係員の前まで行き、手形を渡して預金を頼む。
 誰も彼もが大声だ。

 私も負けじと大声を張り上げる。
 すると、私の両隣も、私の声に負けじと大声を上げる。

 その声。

 どこかで聞いたことがあるな、と思い、思い出してみると、ジゼルの声だ。

 。。。だが、南米にいるはずの彼女が、ここにいるはずはないのだが……そう思って隣を見てみると、褐色の肌の可愛らしい少女で、やはりジゼルに似ていた。
c0124516_044728.jpg

 私はぴんと来た。

 素早く彼女の手を引いて、脇に引っ張り出し
c0124516_0495166.jpg

 名前を名乗ってみる。
 
 手段方法お構いなしである。
 素早さが命なのである。


 ……案の定、彼女は先日の少女だった。
 私の勘も時折大したものである。

 
 彼女の名はイコリーナ、ヴェネチアの商人と名乗った。

 何でも、生き別れの異母兄を探して旅をしているのだという。
 私の脳裏を一瞬、何年か前に別れた異母妹の顔がよぎったが、私が頭を振って、その影を振り払う。

 ……どこにでも、同じようなことをしているものはいるものだ。

 ともかく。

 彼女もやはり物書きをしているようで、そう言った関係から、私の書いているものを読んでくれていたらしい。
 
 やはり、読者から声を掛けられると嬉しいものだし、それが可憐な少女なら言うことはない。
 
 私のボルテージは突如としてマックスに達し、そして思わず叫んだ。
c0124516_0453274.jpg

 彼女の煌めく瞳が、私を見ていた。

そして………その夜。
[PR]
by Nijyuurou | 2008-09-30 00:47

『女侯爵誕生』

ジェノヴァ。曇天微風。

 最近開発された印刷術というのは大したもので、本や冊子を簡単に量産することが出来る。
 古典や聖書などはいうに及ばず、最近では最新の出来事を1枚の紙にまとめた瓦版というものも出来て、離れた土地の出来事も素早く伝わってくるようになった。 
 
 先日書いたように、私もそう言った情報は出来るだけ収集するように勤めているのだが、ある日、ヴェネチアから贈られてきた冊子にとんでもない事が書かれていた。

 「ヴェネチア共和国航海者ぽっけが侯爵位を受任」

 ……一瞬目を疑った。
c0124516_2340654.jpg

 彼女が?

 ……彼女に関していえば
c0124516_23393966.jpg

 妙に露出度の高い、元気な女の子、と言う印象しかなかったが…。
 彼女も大分苦労をしたのだろうと思う。

 
 記事を読み進めてみると、彼女は居並ぶ御歴々をよそに、少々遅れて会場に姿を見せたらしい。
 その様は、まるで、王女が百官を居並ばせ、悠然と姿を見せたようであった、と書いてある。

 まあ……まさか、寝坊でもした、なんて事はないだろう。

 記事によると…現れた彼女を前に、かのモチェニーゴ官房長官も、少々動揺を隠せなかったという話だが、あいつが動揺するというのも珍しい話だ。

 本当に寝坊じゃないだろうな・・・・・・。

 ・・・・まあ、さすがに、それはないか…。

 ………そして、式は滞りなく進み……受勲者に対して、国家元首から与えられる褒美に対して、彼女は

    私の望みはただ一つ我が国の発見のみです

凛としてそう答えたそうだ。

 ………どういう意味だろう。

 ………どことなく熱い感じの印象は受けるな。
 
 ………発見物が増える方が良い、と言う意味か?

 ……………いや、どうも違うな……。

 私はしばらく考えて、ぽん、と手を打った。

 分かった。

 なるほど、ヴェネチアを好きなだけ歩き回って、街の新しい一面を探したい、ってことか。

 冒険家としても一流の彼女だ。

 彼女だからこそ、冒険は荒野のみではなく、身近な街にもある、と言うことが分かるのだろう。

 …………………………………………………………………。

 ……………多分。 


 私が思わず首をひねっていると、横からロクサーヌが記事をのぞき込んできて、ぽっけさんの叙勲ですか、と感に堪えないという声を上げた。

 私は、何となくよく分からない話だ、とロクサーヌにいったのだが、彼女は、全く聞いている様子もなく、お綺麗だったでしょうね、とうっとりといった。
 
 何が、と尋ねると、ほら、服のご趣味はいつも素敵でしたし、と答えが返ってくる。

 私は、それはぽっけが綺麗だったのか、ドレスが綺麗だったのか、どっちだ、そう彼女に尋ねたが、ロクサーヌはどちらもです、と笑うばかりだ。

 だが……ふと気になった。

 まさか、あの格好で叙勲式に出た、訳じゃないだろうな………。
c0124516_23483560.jpg

 それが一番気になった。

<ルール・おへそは隠す>

PS・
 
 後日、セビリアでぽっけ嬢の妹のぷれた嬢と会い、この記事の話をして、叙勲式の様子を聞いたのだが
c0124516_23442528.jpg

 何故か、うなだれていた。

 ますます謎は深まった。

 真実は一体どこにあるのだろう。
[PR]
by Nijyuurou | 2008-09-29 23:44

『君主達のゲーム』

ジェノヴァ。晴天微風。

 政治、というのはなかなか厄介なものだ。

 で、あるので私は基本的に、政治というものに首を突っ込むことはない。
 国同士のいざこざにも興味はない。

 しかし、そんな私といえども、国同士のいざこざの情報は得なくてはならない。

 
 例えば。

 その話を教えてくれたのは、友人のちゅちりんと言う男だ。

ちゅちりん>最近さぁ、フランスとイスパでゴタゴタしてるじゃん?

 と言う話である。 
 フランスは以前、ヴェネチアと揉めたこともある。
 彼の話によると、 
 
ちゅちりん>フランスから先に宣戦布告があったらしいよ
マルコ>ほほー、どんな感じで?
ちゅちりん>最初はサンファンで争ってたんよ。サンファンは取って取られての、繰り返し
マルコ>なるほど・・で、余力のあるイスパニアが
c0124516_18251574.jpg
 
 と言うことらしい。

 モチェニーゴあたりが聞いたら、興味を示しそうな話である。

 今のところ、仕掛けたフランスがもっともダメージを受けているようだ。
 イスパニアはこの機に乗して勢力を伸ばしたようだが、ポルトガルにアビジャンを奪われている。

 結局、漁夫の利を得たポルトガルがもっとも美味しい思いをしている、というのは皮肉な話だ。

 マキャベリ曰く、『ほかの誰かをえらくする原因をこしらえる人は、自滅する』、というらしいが、東洋のことわざには『人間万事塞翁が馬』と言うのがあるらしい。

 後になってみれば、その時悪かったと思ったことでも、良い結果になることがあると言うことだ。

 今度のいざこざが、後にこの三国にどういう影響を及ぼすのか、じっくり見極めていく必要はあるだろう。

 君主達のゲームに興味はないが、それによってもたらされる危険は避けなくてはならない。

 そして、それがもたらしてくれる利益は享受すべきだ。

 十分なほどに。


<ルール・密輸商は、狐と獅子に学ぶようにしなければならない>
[PR]
by Nijyuurou | 2008-09-28 18:25
ジェノヴァ。晴天微風。
c0124516_232846100.jpg
 
 私は交易所の横に陣取ると、目の前に広げた布に商品のサンプルを並べて、交易所にやってきた客に片端から声を掛ける。

 いつも通りの、私の商売だ。

 交易所の親父は私の顔を見ても、もう何も言わない。
 お互いに良く見知った同士である。
 その辺、地元というのは有り難い。

 いつものようにこの交易所でも売れる値段か、若しくは近くの港に持っていけば十分に利益の出る値段で商品を捌いていく。
 真珠はともかく、銀を捌いていた時はさすがに交易所の親父もいやな顔をしていたが、まあ勘弁して貰おう。
c0124516_23293889.jpg

マルコ>いかが?良い真珠ですよ?
お客さん>ん?あたし?
マルコ>そうそう!
お客さん>真珠ねぇ…
マルコ>天然です!養殖じゃないですよー
お客さん>「このお値段で!」ってヤツでしょー……でもなー、別にいらないしぃ
マルコ>ほら、ステータス的に良い感じですよー;宝石の似合う女!……ミタイナ
お客さん>アクセサリに加工してあるならともかく、そのまんまじゃなぁ
マルコ>(ヤベ、無理があったーーー!)……6月の誕生石なんですよー
お客さん>あたし、2月生まれだもん
マルコ>(無理があったーーーーーーっ!;)
お客さん>アメジストなら、買ってあげるわw
マルコ>がーーーーん;
お客さん>買わないけど、飢え死にしないでねー、後味わるいからー。じゃーねー
マルコ>・・・・

 ……等ということもあったが、幸いなことに商品は順調に売れた。
 真珠と銀を売り切ると、発掘してきた戦士の槍と、仕入れたダブリエに切り替える。
c0124516_23302991.jpg

 訳の分からないことを言っていたが…
c0124516_23305284.jpg

 ダブリエは意外と売れる。
  
 ものは言い様だな、等と思ってニヤニヤしていたところ、じっとこちらを見ている女性がいた。
c0124516_2332787.jpg

 私は、自分のあまりの男の色気がまた罪を作ってしまった、とたちまち納得し、彼女に向けてウィンクなど飛ばしてたのだが、彼女は近寄ってくるやいなや、

女性>(密輸商の人だ…)
マルコ>ドキ
女性>(見なかったことにしよう)
マルコ>(通報しないでね)

 とんでもないことを言った。
 焦った私は、彼女に何故その事を、と尋ねると、どうもインドからの情報だという。 
 もう一度、彼女の顔をまじまじと見ると、インド在住の知人とそっくりだ。
 
 何となく、分かった…そう言うと、彼女はその知人とそっくりの仕草で、
c0124516_2332493.jpg

 さらりとそう言った。
 ……口説き文句を言い始める前に気がついて良かった。
 
 ヨーロッパに戻ってくると、どこで誰と会うか分からない。
 その辺、気を付けておかないと大変なことになりそうだ。

 ……会うと言えば、銀行で商品整理をしていると、
c0124516_2333121.jpg

 アリエル嬢とお供のプリラ嬢にあった。
 私が今呉服物を売っている話をしたところ、

★アリエル★>何か売れましたか@@;

 と懐疑的な目を向けられたため、ダブリエは比較的よく売れる、と説明し、さらに
c0124516_23333344.jpg

 と付け加えたところ…
c0124516_2334887.jpg

 厳しいお言葉が飛んできた。
 私は反省した。

マルコ>若干人倫にもとる商売をした気がする……
★アリエル★>(・ω・;)(;・ω・)

 …去り際には彼女は手ずから焼いた焼き魚をどっさりと渡してくれた。
 食料が尽きかけていたので、本当に有り難かった。

 以前書いたことがあるが、食料品に関しては作る人も大事だと、そんな気がする。
c0124516_23343898.jpg

 ともあれ、おかげで、しばらく食いっぱぐれることはないが、ともかく、港にいる間は酒場の食事でけりをつけよう。

 そうおもって、酒場で食事を取っていると、また一人……今度は古い古い馴染みにあった。

 駆け出し時代からの古い馴染みである。
c0124516_2336257.jpg

 向こうもこちらに気がついて、おっという顔をしている。

 久々に、ゆっくり二人で酒を飲む機会を持つことが出来た。
 
 四方山話に花が咲いたが、こいつの成長の度合いと来たら、しかし、驚くばかりである。 

サム>5億ぐらい突っ込んで・・・スッてしまった・・・
マルコ>・・・・・・;初めてあった頃は500Kでぴーぴー言ってたのに……;
サム>うむ・・・羽毛作って喜んでたなぁ・・・
マルコ>俺は今でも500Kでぴーぴーそれだ!!!羽毛作ろう………
サム>成長してない!
マルコ>フフ……物の価値なんてものは、ある面では主観的なんじゃよ、ワトソン……。・゜・(/Д`)・゜・。
サム>そうだね、ホームズ・゚・(ノД`;)・゚・

 5億。
 初めてあった頃は本当に些細な金を巡って、泣き笑いした物だが…。
 
 時の流れというのは、恐ろしいものだな、と私は笑い、サミーも照れたように笑った。

 だが、今日はこれで終わりではなかった。

サム>さて・・・また再びカルカに戻らねば・・・妻が待ってる・・

 あいつが立ち上がる。
 え”、と私はカエルがつぶれたような声を出した。
 こいつ、いつの間に結婚したんだ。
 どういうこと?
 何、それ、死亡フラグ? 

 愕然とした私が口を半開きにしている間に、サミーは踊るような足ぶりで酒場を出て行った。
 
 私はまだ口を半開きにして、サミーを見送った。

 ……結婚。
 
 なんだか、あいつ、本当にしっかりした商人になってきている気がする。
 しかし、なんであれがまた…なんだか、取り残された気分だな、と思わず口をついて出る。
 こうやってみんな少しずつ、まとまるところへまとまっていくのか。

 隣で聞いていたロクサーヌが、サムさんは将来性がありますから、と笑顔で言った。
 じゃあ、俺は、と私は聞いた。
 ロクサーヌは生暖かい笑顔を浮かべ、何も言わなかった。
 
 私は顔をしかめ、目の前のグラスを一気に飲み干した。 


<ルール・時代が流れても変わらないものもある>
[PR]
by Nijyuurou | 2008-09-23 23:36

『海に沈んだ財宝』

アドリア海。晴天微風。

 ロクサーヌが溜息を吐き、ハーフェズがなにやってんだ、と叫ぶ。
 私は、ゴメンと俯いた。
c0124516_2344289.jpg
 
 この日、2度目の引き上げ失敗である。
 


 ・・・手元不如意になりつつあった我々は、当面の目的を当座の資金調達と言うことにした。

 無論、交易所の鑑札はない。

 交易が出来ないので、いつものやり方で稼ぐしかない。

 ロクサーヌは発掘品の販売、と言う堅実なやり方を主張したが、私とハーフェズは先日手に入れた沈没したヴェネチア商船の位置を示す地図を彼女に見せ、
c0124516_2345793.jpg

 海に沈んだ財宝で一発逆転という、大変独創的かつ投機的な手法を主張した。

 その結果がこれである。

 先日マルティネンゴ技師に頼んでつけて貰った引揚用ウインチは調整が難しく、直ぐに船体に傷を付けてしまう。
 引き上げが急すぎるんだ、この下手くそ、というのがハーフェズが言い分で、位置がずれてるんですよ、というのがロクサーヌの意見だ。
 サルベージ歴7隻の強者である私は気分を害し、それならお前らがやって見ろ、と言って甲板に寝転がった。
 
 後で困っても助けてやらないぞ。
c0124516_2346540.jpg


 ……。

 その後、ザダールに船を着け、沈没船内の調査を実施。

 ロクサーヌが、真珠を手に二コニコしていたり、ハーフェズが、お、銀が入ってやがると口笛を吹いていたようだが、その辺は良く覚えていない………。

 その後、一路ジェノヴァに向かい、そこで見つけた品物を売りさばくことにしたのだが、ここで、古い馴染みと顔を合わせることになった。
c0124516_23464950.jpg

 だが、それはまた、明日の晩のお話だ。


<ルール・ウィンチは元気よく>
[PR]
by Nijyuurou | 2008-09-22 23:53

『幕間』

9月20日、ヴェネチア。

 この街の夕焼けは美しい。

 傾いた日の光を写すラグーナがまるでベルベットの様に広がって、その先にはサンマルコ寺院の尖塔がそびえ立つのが見える。
 
 私は、港に滑り込む我が『花の聖母マリア』号の舳先に立ち、目を細めてラグーナのさざ波に目をやった。
 滅び行くものは美しいと言うが、なるほど、この斜陽の町ヴェネチアではその言葉にやけに現実味が感じられる。
 この街の栄華も長い歴史の中ではほんの一瞬、この夕日のようなものなのかもしれない。
 
 ヴェネチアの海は、悲しい色だな、ふと、そんな言葉が口をついて出る。
 ハーフェズが葉巻を燻らせながら、どうして、と尋ねてくる。
 さよならをみんな ここに捨てに来るから、と私は答えた。
 ハーフェズが小さく頷いて、煙を吐く。

 煙は長く尾を引いて、ラグーナの上を流れていく。

 夕日に照らされた甲板の上、私とハーフェズは静かに、そして飽くことなく夕日を見つめていた。
 
 ………瞬間。

 背後から樽の蓋が二枚飛んできて、綺麗に私とハーフェズの頭を直撃した。

 痛い。
 
 思わずかがみ込んで目を上げると、ドゥルシネアが両手に大きな樽を提げ、怖い顔でこちらを睨んでいた。
 彼女は樽を振り回し、二人とも、馬鹿なこと言ってないで、さっさと入港の準備をしてよ、と叫んで、船倉に降りていく。
 船員達がこっちを見て、深く頷く。

 私達二人はゴメンナサイ、と素直に謝り、張り付いたような愛想笑いとともに各々の作業に戻った。


 ヴェネチアには本当に久しぶりに帰ってきた気がする。

 いろいろと気になることがあったのだが、私はともかくまず、自宅の様子を見に行くことにした。
 広場を抜けて、ゴンドラを雇うと、カナル=グランデに面した私の自宅に乗り付ける。
 
 5ヶ月ぶりくらいになるだろうか……。

 思わず、お邪魔します、と言いつつ自宅の扉を開けると、どなた、と言う誰何の声が掛かった。

 執事のスザンナである。

 彼女は私の顔を見ると、マルコさんでしたか、失礼しました、と、ぱっと笑顔を見せた。
 私も笑い返し、ただいま戻りました、と帽子を置いて、靴の泥を払う。
 
 久しぶりに見る彼女の顔は初めてあった時よりも穏やかだった。
 おどおどとした所は消え、ずっと落ち着いて見える。
 私は安心した。

 もう大丈夫みたいだな、と尋ねると、彼女は、もう剣は捨てました、と答えた。
 家族にはあったのか、と聞くと、ええ、と小さく頷き、最近、ようやく妹と会う勇気が出たんです、とはにかむような笑顔を見せる。
c0124516_23485247.jpg

 私も頷き返し、彼女の肩を叩いて、良かった、と呟いた。 
 おかえりと言える、その日がようやく来たらしい…。

 …彼女は、かのレパントの海戦で顔に大きな傷を負った。
 
 だが、本当に傷を負っていたのは彼女の心。
 自信を失い、恐怖に取り憑かれていた彼女は、その心の傷が癒えるまでの感、私の自宅で執事をしながらそっと休息の日々を送っていたのだ。

 その彼女の世話をするために、ロクサーヌが残ってくれたのだが……。

 …私は、ロクサーヌは、と聞いた。 
 スザンナは、ちょっと苦笑して、あそこです、と、客用の大きなソファーを指差す。
 
 見ると、ロクサーヌは膝に私の『マクベス』を乗せたまま、居眠りをしている最中であった。

 私は意地の悪い気持ちになり、彼女の目の前で大きく手を叩く。
 ロクサーヌは飛び上がるように身を起こしたが、膝からマクベスが滑り落ち、今度は慌てて本を拾おうとしゃがみ込む。
 
 私はニヤリと笑って、ハムレットは見たかい?と、聞いた。
 ロクサーヌはひどく混乱した様子だったが、私の顔を見て、一瞬驚くと、今度はすまして、ロミオとジュリエットも見ましたよ、と答える。

 そしてもう一度小さく欠伸をすると、お帰りなさい、と言った。

 ただいま、と私は答えた。
c0124516_23492412.jpg


 その夜は、久々に自宅で食卓を囲むことが出来た。

 私はこれまでの航海をロクサーヌとスザンナに話して聞かせ、ドゥルシネアが横合いから茶々を入れる。
 そして、マイクロフトが話の誇張部分を一々訂正していった。
 ヒマラヤやチベットの話はなかなか受けが良かったし、幽霊船の話はヴェネチアまで噂が聞こえていたようで、あの騒ぎにはそう言う裏があったんですね、と関心を得ることが出来、私の鼻は高くなった。
 
 逆に、ハーフェズが船に乗っている事を知った瞬間、ロクサーヌは珍しく顔を引きつらせた。
 しばらくは言葉も出ない様子だったが、以前の私達二人がつるんで行った悪行の数々と、それによってロクサーヌが被った迷惑の数々を思い出しているのだろうと思う。
 当人はと言えば平然とスープを啜っており、私も同じく平然とスープを啜る事とした。

 さて、では、自宅の二人はなにをしていたのだろう。
 
 ロクサーヌは以前、お芝居でも観ながら暮らしましょう、と言っていたが、本当に芝居を見ながら暮らしてたらしい。
 最近はヴェネチアでもシェイクスピアやカンタベリ物語をやったり時にはギリシャ悲劇を上演することもあると言うことだ。
 
 私は思わず、俺が残れば良かったと言い、良いなあ、とドゥルシネアが呟いた。
 ハーフェズが、お前にそう言う高尚な趣味があるとは知らなかった、といい、ドゥルシネアが口をとがらせる。
 じゃあ、交代しましょうか、と、ナプキンで口元を拭いつつ、ロクサーヌが言った。
 
 私とハーフェズはスープを吹き出しそうになった。 

 ロクサーヌは、お芝居にもだんだん飽きてきました、となかなか贅沢なことを言う。

 そして、そこで一旦言葉を切り、あなた方二人を放っておけませんから、と、静かな、しかし有無を言わせない視線をこちらに飛ばしてきた。

 ハーフェズは、最近はイイ子にしてるよな、と私に言った。
 私は、日曜日には教会にも行ってる、と答えた。
 ハーフェズは沈痛な顔で、それは嘘だ、と首を振る。 
 周りから冷たい視線が飛んできた。

 私は、平然とスープを啜った。 

 ロクサーヌが軽く咳払いをして、船長、かまいませんね、と言い、私は操られるように首を縦に振る。
c0124516_23494430.jpg

 ドゥルシネアが、お休みひゃっほう、と言う少々品のない喜びの声を上げ、スザンナが、よろしくね、と笑いかける。

 ロクサーヌが紅茶のカップを口に運びつつ、やはり小さく笑った。
 

<ルール・日曜日は教会へ>
[PR]
by Nijyuurou | 2008-09-21 23:49

『宗教改革の後………』

 ………少し前まで贖宥状、と言う便利な物があった。

 詳しい仕組みは割愛するが、ともかくローマ教会にいくらか払うと、有り難いお力でこれまで犯してきた罪を帳消し…チャラにしてくれるという、それはそれは便利な物だった、らしい。

 らしい、というのは、今はもうその便利な魔法の護符は売っていないからだ。
 
 ドイツのルターと言う司祭が、金で罪をチャラにするのはルール違反じゃないか、と言い始めたことがそのきっかけとなったのだという。
 
 世に言う宗教改革である。

 ローマ教会はルターの批判に対して、逆改革を断行。
 トリエント公会議の後、贖宥状は発行されることが無くなった………。

 一件、ローマ教会が一方的にやられたように見られがちのこの宗教改革だが、一面ではローマ教会の健全化を図り、風通しを良くする、と言う効果があったということだろう。
 
 もっとも、教会の権威がそれまでに比べて失墜した、と言うことは間違いない。

 おかげで、最近、妙な宗教が乱立してることも、これまた間違いない…。

 何故、こんな話をするのか…あれは、今から1週間ほど前のこと。
[PR]
by Nijyuurou | 2008-09-18 22:37

『Epilogo』

9月15日、リスボン。

運び屋>なるほど…、幽霊船出現の裏にはそんな悲話が隠されていたのか…。あんたに渡した指輪が偶然にもその指輪だったとはな…
 
 頷く運び屋に、私は真っ赤になった頬を押さえながら、おかげで俺は死ぬところだった、と苦情を言った。
 運び屋は、私の頬を見ながら、どうしたんだ、大丈夫か、と不審そうな声を上げるが、私は、これは良いんだ、別口だ、と手を振った。
 
運び屋>あの指輪は初老のかなり身なりの良い主から依頼された物なんだが、届け先はリスボンとしか書かれてなくてな。もう数年も届け先が分からないから、保管していた物なんだ

 しつこく私の方を見ながら、運び屋は指輪についてそう説明した。
 私は憤慨し、人様に出所不明な代物を渡すなんてとんでもない奴だ、と叫んだが、運び屋はしれっとした顔で、お前がいつもやってることだろう、と悪びれない。

 私は一瞬言葉に詰まり、フン、と鼻を鳴らした。

運び屋>まぁ、その恋人たちも可哀想だが、最も救われないのはその貴族かもな…。その後の人生がいかに侘しいものか…

 運び屋は私の顔を見てニヤリと笑い、腕組みをして首を振って見せた。

 私は、肩をすくめた。  
 

 おそらく、あのオポルトの老人が件の貴族なのだろう。
 そして、指輪をリスボンに送ったのも。

 だが、それももう終わったことだ。


 …実は、私はこのふざけた運び屋のところに来る前に、私は老人のところに報告に行ったのだ。
 
 老人は以前と同じように埠頭で海を眺めていた。
 
 事情を説明すると、老人は静かに笑顔を見せた。

老人>指輪とバラの花束を…。航海者さん、いろいろと世話になったの。彼らの仲を裂いてしまった貴族も、2人の幸せを心から願ってるはずじゃ。

 だが、それは初めてあった時と同じ、苦い苦い笑みだった。

 過去を取り戻すことは出来ない。
 結局、人間に出来ることと言ったら、ツケを払うことくらいなのかもしれない。
 
 ツケを払った老人の、何が変わっただろうか。

 本当にそれですべてを割り切れるだろうか……。

 せいぜい、一人の女との、長い長い関係に、ようやく終止符が打たれたと言うくらいのことなのだろうか・・・。


 いずれにしても、過ぎ去った時は戻ってこない。

 愛する女を失った老人の過ごした、長い長い、時は。

 もっとも救われないのは、この老人だったのかもしれない。


 だが、私は知っている。

 この男も、やはり、オーレリアを愛していたのだろう。


 狂おしいほどに。

 
 …もっとも、それも私の想像に過ぎない。
 
 だから、私はただ、運び屋に肩をすくめて見せた。


運び屋>お礼に渡した指輪を持ち主に返してやったんじゃ、あんたの手に残るものが何にもねぇよな? これをあげるな!

 上機嫌の運び屋は、私に包みを一つ、投げてよこす。

c0124516_2191345.jpg

 
 開けてみると、それは青銅製の古めかしいグローブだった。
 指が動かし安いように、一部のパーツに細工がしてある。

 大砲の装填に便利かな、と思う。

運び屋>ほれ、これも数年届け先が不明の品物だ。もしよければもらってくれ

 ………またか。
 まあ、貰えるものは貰っておこう。

 私は運び屋に礼を言って、立ち上がった。

運び屋>まぁ、あんたのおかげでもう臆することなく仕事に専念できそうだ。航海者さん、忙しいところオレにつきあってくれてありがとうな。また世界のどこかで会える日を楽しみにしてるよ!
 
 笑顔の運び屋、渋い顔の私。
 明暗分かれた感じで、私達は別れた。

 やれやれだ。

 結局ただ働きに近い仕事になった。
 私は運び屋と別れ、酒場へと歩く。
 
 酒場に着くと、すでにドゥルシネアはできあがっており、ハーフェズはいつものように涼しい顔でビールを啜っていた。

 私の顔を見るなり、ドゥルシネアは、またただ働きね、と頬を膨らませる。
 口をへの字に曲げて見せたが、それで勘弁してくれるような手合いではなく、もう、ちょっとは懲りてよね、と耳を引っ張られた。
 私は、いや、もう懲りた、と答えた。
 ハーフェズが、美人の幽霊だったな、と眉を寄せてみせる。
 
 そうなんだ。

 あの高台の女、どうもオーレリアの親族らしくて、いや、あの女も美人だったが、肖像画を見せて貰ったんだよ、オーレリアの…本当に美人だったんだぜ………

 私は一息にそう言うと、テーブルの上のラム酒のグラスを掴み、一口に飲み込んだ。

 ハーフェズが、全然懲りてねえな、と呆れ声で言った。
 
 ドゥルシネアは瞑目し、そんなこと言ってると、また幽霊が寄ってくるわよ、と怖い顔をしてみせる。

 私は笑い返した。

 今度はコブ付きじゃなくて、独り身の美人の幽霊を頼む。

 ハーフェズが笑い出した。
 ドゥルシネアもつられるように。
 もちろん私も。


 そして私達はまたグラスをぶつけ合い、乾杯の歓声を上げた。 

 

 私の名はマルコ。

 ジェノヴァの密輸商、そして冒険者。

 美人の依頼ならば、いつだって大歓迎だ。

 たとえ、貴方が幽霊でも。


<ルール : 科学で割り切れることばかりではない>

『アゾレスの亡霊』 ~  FIN
[PR]
by Nijyuurou | 2008-09-16 02:20 | 『アゾレスの亡霊』

『Gone with the Wind』

9月15日、リスボン。

放浪の祈祷師>またあんたかい? まったく人使いの荒い人だね。まあ今までのよしみもあるから、今回は特別にタダでみてあげるよ

 祈祷師は私の顔を見るなりそう言った。
 別れ際に今度は三つ持ってこいとか何とか言っていたわりには、なかなか可愛いことを言うじゃないか。

 私はニマニマして、ウイヤツウイヤツ等といいながら祈祷師に老人の話を伝えた。
 祈祷師は突っかかってくるかと思ったが、なんとひどく真剣な顔で、指輪を見せてみな、と私を促す。
 少々毒気を抜かれ、指輪を取り出して祈祷師に渡したが、彼女は指輪を手の中で転がしつつ、じっと目を閉じたまま、黙り込んだ。

 私達も祈祷師のただならぬ様子に思わず黙り込む。
 

 しばしの沈黙の後、祈祷師は目を開けた。
[PR]
by Nijyuurou | 2008-09-15 22:32 | 『アゾレスの亡霊』
9月13日、オポルト。

 ポルトガル西海岸は今日もひどい風だ。
 天気は悪くないのだが、海からの風は先日からどんどんひどくなり、今も索具を引きちぎらんばかりに吹荒れている。
 これが物語ならば主人公の行く手を暗示して…とでも書くのだろうが、現実には冗談でもそんなことを口にしたくないものだ。
 
 と、いうわけで、私は黙ったまま、仏頂面で、オポルトの埠頭を歩いていた。

 祈祷師の話が確かならば、どうやら、先日の埠頭の老人が、今回の一件の鍵を握っている………らしい。

 それで再びこうしてノコノコオポルトまで戻ってきたというわけだが……。
 あの老人は、まだいるだろうか……。

 こんなことになるなら、以前来た時にもっと突っ込んだ話をしておけばよかったんだ、と思われるかもしれないが、それは結果論というものだ。
 後悔はしていない。
 しかし、あの老人を見つけることが出来なければ、また調査は暗礁に乗り上げることになる。
 それだけが不安である。

…だが、それは杞憂で終わってくれた。
[PR]
by Nijyuurou | 2008-09-14 01:51 | 『アゾレスの亡霊』