大航海時代online Boreasサーバー  マルコの航海日誌


by Nijyuurou
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『修道院のドゥ=フランス』

ナポリ。

 晴天、微風。


  …その日も、私は船長室に山積した書類に囲まれ、だらだらと事務仕事を続けていた。
  新年早々からたまりに溜まった仕事はまだ片づく気配が無く、私もやや惰性でだらだらと仕事を続けているような状況であった。 

  なかなか、海に出ることも難しい。

  あちらの港で滞在し、またこちらの港で滞在し、を繰り返す、少々刺激に書ける日々続いており、それがまた、私の惰性をいや増しにましていた。
  …そんな中、ロクサーヌが意気揚々と船長室の扉を跳ね開けて入ってくると、ヴァイキング居留地の探索の依頼があるそうです、と目を輝かせて言ったのだ。
  なんでも、退屈しのぎに顔を出した冒険者ギルドで、斡旋人から紹介されたのだと言う。
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  私は思わず手にしたペンを取り落とし、書類の山を机の中に乱暴に突っ込むと、すぐに出航するぞ、と叫んだ。  




  …北フランスヴァイキング居留地の探索は、今までにも何度か冒険者ギルドから依頼されたことがある。 

  なにしろ、この依頼は、意外と金になるのだ。
 
  ヴァイキングの居留地から発掘される武具の中には、まだ使用可能で、しかもかなり質の良いものが見つかるのである。
  これが、いわゆる海軍や海賊や、そして何より海戦好きの方々に、良い値段で売れるのだ。 

今回発見された居留地の場所を知っているのは、カレーの聖職者だという話だ。  
  寒風吹きすさぶ中、北海を航海することになり、その上、ボルドーを過ぎたあたりで天候が荒れ出し、雪まで降り始めた。

  私は大急ぎで船を進ませ、逃げるようにカレーの港へと入った。

  港にはいると、船員一同、酒場へ向かって走る。

  依頼の情報を得るため……もあるが、何より、冷え切った体に温めたワインを補給してやる必要があった。
  
  声高にワインを頼み、ついでに、最近見つかったヴァイキングの居留地があると聞いたんだが、とマスターに聞いてみる。
  マスターは、ああ、それだったら、女公様の教会の建設予定地で見つかった、あれだろう、と言う答えが返ってきた。
  
  …このカレーで、女公様、と言えば、ベリー女公ジャンヌ様に決まっている。

  私は溜息を吐き、隣にいたロクサーヌが食べかけていたおそらく…バーベキューの一部を喉に詰まらせ、妙なうめき声を上げた。

  小型生物に関しての報告を喜んで聞いてくださる方で、私はいつもそう言う話はこの方にすることにしている。
  大事なパトロンの一人で、よく知っていることは、よく知っている。
  だが…正直言って、あうのに緊張する人、ではある。
  緊張しますね、とロクサーヌが言う。
  私は頷き返し、最近ご機嫌伺いもしていないから、丁度良いさ、と立ち上がった。
  

  彼女は町の外れの女子修道院に住んでいた。
 
  通常、女子修道院に男が入っていく、というのはとんでもない話なのだが、この方については特別だ。
  私達に限らず、この方に用事のある男もいる。
   
  ここの尼僧達も、そう言う訳で男の客にも馴れており、用件を伝えると、丁度時間がある、と言うことで、彼女の部屋へと通される。

  質素な部屋で、飾り気もなく、あるのは粗末な寝台とテーブル、そして訪れる客のための椅子くらいのものだ。
 
  私達が入っていくと、部屋の主はテーブルに向かって、書き物をしていたが、私の顔を認めると、あら、貴方が来られたのね、と、笑顔を見せた。

  この人はけして、美人ではない。

  どちらかというと醜女の部類に入る。
  父親に似て、目は小さく、鼻は不格好に高すぎる。
  そして、足の矯正の失敗で足は萎え、ヒョコヒョコと体を揺らして歩く。
  
  だが、その威厳たるや、そのあたりの三文貴族の非ではない。

  威厳、というのは高い立場に立っていたり、威圧的な態度を取ることで発揮される、と言うものでもない。
  その人間の持っている器…格、と言うものだと思うが、仕事柄、様々な要人と会うこともある私にとっても、この人の持っている威厳、というのは、知っている内でも五本の指に入る。
  
  私は、奇遇なことで、と答え、ご無沙汰をしておりましたが、と跪いて深く頭を下げた。
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  彼女はまた笑顔を見せ、ロクサーヌに、貴方も元気そうで何よりね、と声を掛け、ロクサーヌは、きょきょきょ恐縮です、と、どもりながら頭を下げる。
 
  …私が少々緊張しながら、それで、件の居留地についてなのですが、と切り出すと、彼女は、そうね、と面白そうに首をかしげ、それでは、また、いつものように、何か珍しい話を聞かせてくださいな、と言った。
  私は、それでは御無聊の慰めに、と前置きし、最近見つけた宝石のように美しいカエルについて、彼女に話し始めた。
 
  …その日は結局、そのまま彼女の所に泊まり、次の日の朝出立することになった。
  夜間に船を出すほど急いではいなかったというのもあるが、何より、ジャンヌ女公から次々に話を求められたのがその理由だ。
  この小さな田舎の港で暮らしていると、外海の話、というのは何よりの楽しみなのだという。
  私が、それでは近いうちにまた参ります、と言うと、彼女はひどく嬉しそうに笑っていた。

  この人の生活も、孤独なのかも知れないと、ふと、そう思った。
 

  …問題の居留地はさほど遠い場所ではなく、いわゆるノルマンディーの一角に位置する、典型的なヴァイキングの遺構だった。
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  この、北フランスに居留したヴァイキングは一名「デーン人」と呼ばれ、やがて、酋長であるロロに率いられてノルマンディーを席捲、「ノルマン人」と呼ばれるようになる。

  そう話しながらツルハシを振っていると、つまりは、俺達は海賊の上前をはねて
るようなものか、と答えながらハーフェズもツルハシを振るう。
  まあ、そんなところだ、と答えながら、私もさらにツルハシを振る。

  …発掘作業を続けながら、ふと思い出したようにハーフェズが、何でお前ら、あの婆さん相手にあんなに緊張していたんだ、と、言った。
  ジャンヌ女公の事か、と私は答える。
  ハーフェズが、ああ、気さくな、人の良い婆さんじゃねえか、といい、まあ、何となくプレッシャーのある婆さんだったがな、と付け加えた。


 私は深い溜息を一つ吐き、あの方は元フランス王妃だぞ、と答えた。


 王妃だと、とハーフェズが目を丸くする。
 私は、元王妃だ、と訂正した。
 ハーフェズが、それは皇太后って言うことか、と尋ね、ロクサーヌが、いえ、離婚なさったのです、と回答する。
 訳が分からんな、とハーフェズが眉を寄せた。

 ルイ12世はルイ11世の娘であるジャンヌ=ドゥ=フランス…当時のジャンヌ女公…と結婚することにより、王位継承権を得た。
 ところが、この男、王位を得た途端、ブルゴーニュ女公である前王の未亡人と結婚するため、王妃を離婚しようとし、結婚を無効とする裁判を起こしたのだ。
 これは、ブルゴーニュ女公と結婚することでブルゴーニュ地方をフランスに併合する狙いがあったという話であるのだが、一節によると、醜女だが人望厚く、王家の正統である王妃を嫌ったのではないか、と言う説もある。
  
 公然と語られることは少ない説だが…私は、どうも、後者の理由が強いのではないか、と思う。

 …ともかく、王妃ジャンヌは、危うく凡てを失って離婚されるところだったのだが、ある弁護士の活躍により、慰謝料として王妃にベリー地方を割譲、ベリー女公領とすることが出来た。

 かくして、ベリー女公ジャンヌの誕生、となるわけだ。
  
 私はひとしきり説明し、それでも彼女は立派な人だぞ、と付け加えた。

 聖母マリアへの信仰心が厚い人で、離婚してから修道会を作っているし、人々からも愛されている。

 本当に立派な…聖女のような方なのだ。

 だからこそ、私は苦手だ。

 ハーフェズは、うむ、と唸って、確かに、それは、ちょっと苦手だな、と顔をしかめる。 
 私は、俺たちゃヤクザな商売だからな、と頷き返し、さらにツルハシを振る。
 ロクサーヌが口を尖らせて、私は別に苦手じゃないですから、と言い、さらに、ヤクザな商売でもないです、と付け加えた。 
 ハーフェズはそれを黙殺しつつ、まあ、そういう女の旦那をしていたら、だ、と言いながらツルハシを振った。
 ガチリ、と固い音が響く。 
 ハーフェズは、並の男ならいたたまれなくなって反射的に離婚したくなるのかもしれんな、と続けながら、ツルハシの先を確かめる。

 兜だ。

 私は頷いて、エライさんほど、自分より格上の相手が側にいることに耐えきれんのさ、と答え、兜を土の中から掘り起こす。

 鈍い光が、この兜がまだ力を失っていないことを、力強く示していた。
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 ロロの兜、とでも箔をつければ、良い値で売れるはずだ。
 
 もっとも、その性能は、名前に負けてはいないのだが。


 本当に良いものは、土に埋もれても輝きを失わない。

 人もそれは同じだ。

 残るべき人の名前は、必ず輝いて残ると、そう思う。
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by Nijyuurou | 2009-02-22 23:25