大航海時代online Boreasサーバー  マルコの航海日誌


by Nijyuurou
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『調べに魅せられて』

 ナポリ、晴天、微風。

 私は嫌な顔をした。

 嫌な顔をして、何処の馬鹿がこんな依頼を持ってきたんだ、と毒づいた。
 冒険者ギルドの斡旋人は、鼻で笑うと、まさか本当に伝説を信じてるわけじゃないだろうな、と呆れたようにいった。
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 あのナ、と私は言い返す。
 セイレーンというのは、本当にいるものだ、と私は思っている。
 ただの伝説、という向きもいるだろうが、船乗りならば必ず、海上に流れるあの美しくも奇妙な調べを聴いたことはあるだろう。
 大体、私はそういった『オカルト』の絡む依頼で何度も痛い目にあっているのだ。

 ・・・そこまで言うと、斡旋人は首を振って、そこまで言うなら、まあ別のやつに頼むとしようか、といった。
 
 そして、こう付け加えた。
 
 しかしマルコ、お前金無いんだろう。
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 案の定ロクサーヌは渋い顔をした。
 渋い顔をしたが、それでも依頼を受けるしかないことはよくわかっていて、仕方がありませんね、と一言言ったっきり、いそいそと航海の支度を始める。

 何でも、件のセイレンのものといわれる竪琴は今はアテネにあるのだという。
 
 本物っぽくていやだな、と私が呟くと、ハーフェズが、大体セイレーンってのは何なんだ、と頭を掻いた。
 ロクサーヌがちょっと首をかしげて、ライン川地方の伝説ではなかったですか、と言った。
 私は首を振った。

 それは、ローレライ伝説である。
 ・・・セイレーンはギリシャ神話に登場する女怪だ。
 もともとは美女だったのだが、神の怒りに触れて、怪鳥のような姿に変えられ、美しい歌声で船乗りを惑わして記憶を奪い、難破させ、命を奪うようになった。
 ローレライは不実な男にだまされてライン川に身を投げた女性が水の精になったもので、同じように歌声で船乗りを渦に引き込むものだが、おそらくこちらのほうが新しい・・おそらくセイレーンの伝説が元になったのだと、思う。

 セイレーンの登場するもっとも有名な伝説は、かの『オデュッセイア』で主人公のオデュッセウスはセイレーンの出る海域で仲間達には耳に蝋で蓋をさせ、自らは蓋をせず、帆柱に体を縛り付けて海域を通過する。
 セイレーンはオデュッセウスを惑わせなかったことで誇りを傷つけられ、海に身を投げた・・・。

 そこまで説明したところで、ハーフェズが手を上げた。
 何でそのオデュッセウスは自分の耳には蓋をしなかったんだ、と尋ねてくる。
 セイレーンの歌が聞きたかったからだ、と私は答えた。
 ハーフェズはしばらく考えて、その男は頭に何か沸いてるな、と言った。
 私は黙ってうなずき、ロクサーヌは首を振った。

 ・・・アテネの酒場で聞き込みをしてみると、なんと
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 問題の竪琴を持っていたと言うのは、看板娘のミュリネーだったのだと言う。
 ところが、竪琴は今、ナポリの楽士ジェズアルドに貸し出してしまったとも。

 ・・・竪琴の来歴を聞いてみると、ふらっと来たお金持ちがぽんとくれたのだと言う。

 とても本物だとは思えないけれど、と笑うミュリネー。

 ・・・私はいくら金持ちでも、ふらっと来て、ぽんとそんなものくれるかね、と彼女に言った。
 ミュリネーは乾いた笑いを収め、さあ、お泊りしていきたかったんじゃないかしら、と言う。
 私は彼女を見つめ、彼女は目をそらした。

 私は深いため息を吐いた。


 ・・・ナポリに戻り、ジェズアルド氏に竪琴のことを訪ねると、案の定顔を青くして
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 と言う。
 私は仕事をやめたくなったが、溜まっている飲み屋の付けのことを思い出し、重い足を引きずるようにして教会へと向かう。
 
 教会のドアを叩くと、中から司祭が顔を見せ、私が竪琴を見たいと伝えると、目をちかっと光らせてからドアを開け、ついてきたまえと促した。

 そうして見せられたのは、なるほど、美しい竪琴である。
 全体は金でできており、小さな宝石が品よく飾られている。
 私に音楽の心得は無いが、思わず手にとってかき鳴らしたくなるような品物だ。
 不思議と、自然に心をひきつけられる。
 
 ・・不思議なのは司祭達で、竪琴と私を遠巻きにするようにして、近寄ってもこない。
 そして、私がまじまじと竪琴を見ていると、司祭は、一つつばを飲み込んで、もって生きたまえ、と私に言った。

 ああ、なるほどな、と私は思い、笑顔で、いえ、結構です、と答える。

 ・・・・綺麗に見えてもこの竪琴、ろくなものではないのだろう。

 私はアヂュー、またな、と言い捨てて、きびすを返し、真っ直ぐに教会の出口へと向かった。
 と、背後から待ちたまえ、と司祭の声がかかり、ふと、振り向いてみると、そこにはすさまじい形相の司祭が竪琴を持ってたっていて、取り巻き連中と共に私に掴み掛かってくる。

 あまりのことに、あ…と、思った瞬間にはもう遅く、一瞬後には私は竪琴を持たされて、教会の外へと放り出され、そして教会の厚い扉は閉まった後だった。
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 と・・・。

 私の手の中で、竪琴がポロンと、美しい音を立てた。


 弦に触ってもいないのに。


 私は少し考えて、そっと竪琴を教会の出口の前におき、黙って船へと帰った。
 
 こんなものにかかわって、ろくなことになる、わけが無い。

 君子危うき似近寄らず、とジパングの諺にも在る。

 




 どうでした、と言うロクサーヌに、出航の準備を整えるように指示して、船長室へと戻る。

 ともかく、これで今回の仕事はおしまいだ。

 あの竪琴のことはどうも気に入らないが、ともかくこれで依頼完了である。

 …私はウィスキーでも飲んでもやもやを吹き飛ばそうと、キャビネットを開けた。

 そしてキャビネットの中に見たのだ。


 静かに澄んだ調べを奏でる、金色の竪琴の姿を。
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 なぜだかわからないが、ともかく美しく悲しげな調べが、流れていく。

 私は少々震えの来た手でウィスキーをグラスに注いで一口含むと、目を閉じて、調べに耳を傾ける。

 ・・しばらく聞いて、ふと思った。

 なるほど、この調べなら、かのオデュッセウスも帆柱に縛り付けられてでも、聞いてみたいと思うはずだ。

 私はもう一口ウィスキーを口に含むと、結ったりと椅子に座りなおす・・・・・。

 思わず唇に笑みが浮いた。


 確かに、『人を惑わせる竪琴』だ・・・。



・・・・・そういうわけで、この不思議な竪琴は、まだ、船長室のキャビネットの中に、入っている。 
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by Nijyuurou | 2009-11-11 00:19 | 依頼記録