『ドゥルシネアの白い猫』
2007年 08月 07日
8月7日、カリカット。
ドゥルシネアはネズミが嫌いだ。
いつだったか、ロクサーヌが倉庫で捕まえたネズミを見て慌ててしまい、海に落ちたことすらある。
…とはいえ、ロクサーヌは黒い悪魔と呼ばれる、脂ぎった人類の仇敵が苦手で、船室であれ、食堂であれ、一度目にすると半狂乱になる…。
誰にだって苦手なものはあるのだ。
さて、インド西沿岸を航行中のある日…。
私はいつものように釣り糸を垂れ、釣りの修行に余念がなかった。
むろん、ただ修行のためにだけ釣っていたわけではない。
私は釣り上げたイワシをこっそりと乾物にし、ベッドの中でこれも隠して持ってきたボルドーのワインとともに楽しむことを喜びとしていた。
我ながら、つましいとは思うが、人間にはどんな時でも楽しみが必要である。
この日も朝からイワシを5匹ほど釣って魚籠の中に入れ、日も高くなってきたのでそろそろ日干しにしようと思って腰を上げたが…その時、異常に気がついた。
私のイワシがいない。
船員の悪い悪戯か、と思って周りを見回すと、私のイワシは2m程向こうで無惨な姿になっていた。
真っ白い猫だった。
私のイワシの最後の一匹を頭からかじると、満足そうに飲み込み、ご丁寧に尻尾だけは吐き出した。
私は黙って猫の首をつかむと魚籠に押し込み、調理室に向かった。
たまには魚ではなく、肉でも良いじゃないか。
それよりも失われた私のイワシの敵を取らなくてはならない。
そう堅く心に誓い、暴れる猫を魚籠に押しこもうとしていると、マストの上から慌てた顔のドゥルシネアが降りてきて、
珍しく、殊勝な顔でそう言った。
……話を聞いてみると、どうも船倉にはびこるネズミを退治するために連れてきたらしい。
そうこうしていると、猫はするりと私の手をすり抜けて、船倉の方へと逃げていった…。
私は正直イヤな顔をした…。
私のイワシはどうなるんだ。
だが、私の意見はやはり黙殺された。
船倉にはびこるネズミは料理当番の天敵でもあり、また、ネズミ退治に倦んだロクサーヌも猫を載せることに諸手を挙げて賛成した。
結果…アメデオ、と名付けられたその白い猫は、今日も甲板で欠伸をし、また、ある日は船倉の平和を守っている。
私は、その日は結局イワシ無しで過ごすことになった…。
<ルール37『趣味より実益』>
ドゥルシネアはネズミが嫌いだ。
いつだったか、ロクサーヌが倉庫で捕まえたネズミを見て慌ててしまい、海に落ちたことすらある。
…とはいえ、ロクサーヌは黒い悪魔と呼ばれる、脂ぎった人類の仇敵が苦手で、船室であれ、食堂であれ、一度目にすると半狂乱になる…。
誰にだって苦手なものはあるのだ。
さて、インド西沿岸を航行中のある日…。
私はいつものように釣り糸を垂れ、釣りの修行に余念がなかった。
むろん、ただ修行のためにだけ釣っていたわけではない。
私は釣り上げたイワシをこっそりと乾物にし、ベッドの中でこれも隠して持ってきたボルドーのワインとともに楽しむことを喜びとしていた。
我ながら、つましいとは思うが、人間にはどんな時でも楽しみが必要である。
この日も朝からイワシを5匹ほど釣って魚籠の中に入れ、日も高くなってきたのでそろそろ日干しにしようと思って腰を上げたが…その時、異常に気がついた。
私のイワシがいない。
船員の悪い悪戯か、と思って周りを見回すと、私のイワシは2m程向こうで無惨な姿になっていた。
真っ白い猫だった。
私のイワシの最後の一匹を頭からかじると、満足そうに飲み込み、ご丁寧に尻尾だけは吐き出した。
私は黙って猫の首をつかむと魚籠に押し込み、調理室に向かった。
たまには魚ではなく、肉でも良いじゃないか。
それよりも失われた私のイワシの敵を取らなくてはならない。
そう堅く心に誓い、暴れる猫を魚籠に押しこもうとしていると、マストの上から慌てた顔のドゥルシネアが降りてきて、
珍しく、殊勝な顔でそう言った。
……話を聞いてみると、どうも船倉にはびこるネズミを退治するために連れてきたらしい。
そうこうしていると、猫はするりと私の手をすり抜けて、船倉の方へと逃げていった…。
私は正直イヤな顔をした…。
私のイワシはどうなるんだ。
だが、私の意見はやはり黙殺された。
船倉にはびこるネズミは料理当番の天敵でもあり、また、ネズミ退治に倦んだロクサーヌも猫を載せることに諸手を挙げて賛成した。
結果…アメデオ、と名付けられたその白い猫は、今日も甲板で欠伸をし、また、ある日は船倉の平和を守っている。
私は、その日は結局イワシ無しで過ごすことになった…。
<ルール37『趣味より実益』>
by Nijyuurou
| 2007-08-07 23:55