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大航海時代online Boreasサーバー  マルコの航海日誌


by Nijyuurou
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『霧の向こう』

1月9日、サントドミンゴ。

世の中、分からないことが沢山ある。

あの話も、最初は簡単な話だった。


怖いものはあるかい、とギルドマスターが声を掛けてきた時は、一体どんな依頼かと思ったし、
『霧の向こう』_c0124516_23404450.jpg

実際に話を聞いてみると、これがまた大層な話であったが・・・もっとも、私は魔の海域などと言うものはまったく信じなかった。
世の中のことはおおむね、科学、と言うやつで説明出来る。

ルネサンスとは、中性の暗黒を科学の光でてらし、世界を人間の手に取り戻すものなのだ。

水夫長のマイクロフトが、何となくいやな感じですねえ、と言って依頼を受けるのを渋ったが、私は報酬に釣られて二つ返事で引き受けた。
話を聞いてみると、
『霧の向こう』_c0124516_23411153.jpg

話はずっと簡単だった。
陸の人間には分からないだろうが、原因不明の遭難など海ではざらにある。
嵐で沈んでも、海賊に襲われても、座礁しても……一度海に飲まれてしまえば、船の痕跡などほとんど残らない。
船の破片や荷物の樽でも浮いているだろう、などというのは海を知らない人間の浅はかな考えである。

海というものは油断ならない怪物の顔も持っているのだ。

で、あるので、今回の船の失踪に何の不思議もない。
波の高い海域だが、特に異常はない、おそらく難破だろう…そう考えながら、私は一路ハバナに向かった。

ところが、だ。

ハバナで話を聞いてみると、船乗り達に聞いてみると、あの海域は祟られている、皆一様に顔色を青くする。
悪いことは言わないから、近寄るなと言うのだ…。
だが、思うに、おそらく、
『霧の向こう』_c0124516_23432790.jpg

こいつだろう。
船乗りの一人が、船が突然海中に引き込まれたと言っていた。
クラーケンであれば、もう何度か出くわしている。
初めこそ驚いたが、今となってはもう大きなイカでしかない。
海は広いのだ、深い海にはああいういかがいても不思議ではない…。

夕刻、酒場で一杯やりながら、私は不安そうなマイクロフトとドゥルシネアにそう言って聞かせた。

二人はまだ顔を見合わせて、納得いきかねている様子だったが、それよりも、気になっていることがあった。

サントドミンゴを出てからと言うもの、後を追ってきている船がいる。

距離の取り方から言って、おそらく攻撃チャンスをうかがっている海賊船だろう。
…しかし、何故、私達の船を狙っているのか……。
思わず口に出すと、ハーフェズが頷いて、おそらくお前がサントドミンゴで酒場のおねぇちゃんに1千万1億ドゥカートの着ぐるみの話なんかしたせいだろう、と言う。
私は気分を害したが、あまり反論しても藪蛇な あまり大声を出すのも大人げないと思い、まあ、それはそれで、と話を流した。
ハーフェズは1つ溜息を吐いて、放っておけ、と言った。
本気で逃げればこちらには追いつけっこないというのだ。
確かに、と私は頷き、その話はそれで沙汰やみになった。

その日は十分に休息し、次の日は早速問題の海域へと船を向ける。

順調な航海だった。
予想された海賊の襲撃もない。
イスパニアの輸送船が消息を絶った海域まで到着し、調査を行うが、やはり何の痕跡もなかった。

やはり、通常の難破だろう。

海賊が襲ったのであれば、お喋りの海賊共のことだ、必ず噂が聞こえてくる。
私はそう思い、調査を打ち切ることにした。



………ここから先、何が起きていたのか、正直よく分からない。

混乱していたのかもしれないし、そうではない、現実のことなのかもしれない。
ともかく、後の世の人のために、あるがままを書き残しておこうかと思う。


異変の始まりは、調査を終えたあたりで、羅針盤の調子がおかしくなってきたことだ。
ともかく、この海の上で北がわからないのではどうしようもない。

だが、磁気異常はままあることで、私は縮帆を命じて異変の納まるのを待つことにした。

しかし、夜に入っても、異常はいっこうに納まる気配を見せず、ますます激しくなっていく。
その上、まるで白い水の中に放り込まれたような、濃い霧まで立ちこめてきた。

ドゥルシネアが珍しくひどく心細そうな声を上げ、とにかく船だけ動かそう、と言った。
私もここに来て、ようやく嫌な予感に駆られ、展帆準備の指示をした。

ちょうど、その時である。

いつの間に近づいてきたものか、白い霧の向こうから、鬨の声が上がった。

海賊船だ。

シルエットから、サントドミンドから追ってきた船に間違いない。

私は自分の迂闊さ加減に舌打ちし、大砲の準備をするよう叫んだ。
何とか一発お見舞いし、船を離すしかない。


音が聞こえてきたのは、その時だ。

風を切るような鋭い音と、低い太鼓のような音。

音は、頭上からだった。

気配を感じ振り仰ぐと、見たことのないものがあった。


鳥、なのだろうかと思ったが、巨大すぎる。


鼻先で何かがくるくる回って、そこから先ほどの轟音が上がっている。
まるでロック鳥ぐらいの大きさの、それは全部で5つ。
空気を切り裂く轟音を上げながら、私達の頭上を凄い勢いで通り過ぎ、また霧の中へと消えた。

鳥のようなものを5羽、ではなく、5つ、というのは……おそらくあれは、何か人の作ったものではないかと思うのだ。

理由は2つ。

すれ違い様それの胴体に「F7」と文字が書かれているのが見えたこと。
それと、もう一つ…それの頭の辺りに、どうも人の姿が見えたような気がするのだ。

絵で描くと、
『霧の向こう』_c0124516_23443382.jpg

こういう感じのものだった。

今となっては、あれがなんなのか、よく分からない。
どこかの酔狂な錬金術師の作ったものか、それともダヴィンチ先生のような人の発明品か……。

ともかく、よく分からないことだけしか分からない。

私と船員達がその影に見とれていたのは、10秒ほどのことだっただろうか……。

ふっと現実に戻り、展帆に掛かろうとすると……すでに霧は消えていた。

消えていたのは、霧ばかりではない。

先ほどまで、接舷せんばかりに近づいていた、海賊船。

消えていた。

後にはただ、静かな、元の通りの海が広がっているばかりだ。

羅針盤も元に戻っている。

私達はしばらく呆然と立ちつくしていたが、やがて背筋に這い登ってくるような寒気に襲われ、慌てて船をハバナへと向けた。


……これが、今回の航海の日誌である。
正直、何があったのか、本当にさっぱりと分からない。
ただ、何となく確信出来るのは、あの海賊船には、おそらくもう、二度と会うことはないだろう、と言うことだけだ。

よほどのことがないと、あの海域には近づきたくない思いだ。

あの、バミューダ海域には………。
『霧の向こう』_c0124516_23445143.jpg


<ルール3『怖いものは怖がる』>
by Nijyuurou | 2008-01-11 23:45