『ερυθρα』
2008年 01月 20日
1月18日、アデン。
ερυθρα.
これで、エリュトゥラー、と読む。
エリュトゥラーと言うのは、勿論イタリア語ではない。
当然『イタリア語訛りのどこかの言葉』だったりもしない。
エリュトゥラーとは、ギリシャ語で赤…紅海の古い呼び名である。
そう、本日は、紅海周辺の探査である。
このエリュトゥラーという名前に聞き覚えがある、賢明な読者もおられると思う。
かの、著名な『エリュトゥラー海案内記』に記された、一連の航路は、すなわち、この紅海からインドに掛けての航路なのである。
この案内記によると、ローマ帝国と、古代のインドの間にはすでに季節風を利用した遠洋貿易が行われていたらしい。
そればかりか、インドを越えてセイロン、東南アジア、そして、かのチャイナすら記録されている。
ひょっとして、古代の人々の方が、現代に生きる私達よりも、遙か遠くのことをよく知っていたのではないかと、そう思わざるを得ない。
また、こういう交易のための重要な記録が、本になり、皆が読める形にされた、と言うのも驚きだ。
今、こういう航路の記録というのは国家的な秘密事項だ。
かのマゼラン提督の記録については、以前お話ししたが、航海の詳細な記録というのは、それだけで1つの財産、国1つひっくり返すこともあるものなのだ。
今であれば、血道を上げて奪い合う事になるだろう記録を、皆で共有していた古代の社会は、現代よりもずっと開かれた社会、だったのかもしれない。
ともあれ、調査……と言っても、たいしたことはない。
普段から通る航路であり、
簡単に調査は終わった。
紅海とは言うが、その海の色は世界のどの海よりも透明だ。
船の上から、色とりどりの魚が泳ぐ様が楽しめる。
もし、人が魚のように水の中で息が出来るのであれば、この紅海は非常に楽しい場所になるだろう。
さて…この紅海だが、実はヨーロッパからほど近い場所にある。
スエズまで行ってしまえば、陸路で海路までさほど遠くない。
現に、立ち寄ったマッサワの出航所の役人が、
もし、スエズが地中海とつながれば、貿易には良いのですが、と夢のようなことを言っていた。
それを聞いたドゥルシネアが、じゃあ運河でも掘ればいいじゃない、と、また突拍子もないことを言い始める。
私は苦笑いするしかなかったが、ふと、昔読んだチャイナの歴史書の話を思い出した。
昔、スイ、とか言う王朝のヤン=ティーという暴君が、国の南北を流れる大河をつなげる大運河を掘ろうと、民衆を駆り立てた。
結局、この工事の不満や、遠征の失敗が元で反乱が起き、国は滅びるのだが………。
もし、ドゥルシネアが何かの間違いで、どこかの王妃にでもなった日には、この女の考える突拍子もない事業で、民衆は喘ぐことになるのではないだろうか……。
………私はもう一度、ドゥルシネアの方を見た。
罪のない顔である。
そういう人間が、一番怖いかもしれない、つくづくそう思う。
ともあれ、スエズと地中海をつなぐような運河がもし出来るなら、それはとんでもない大事業になるだろう。
<ルール6『民を慈しむ』>
ερυθρα.
これで、エリュトゥラー、と読む。
エリュトゥラーと言うのは、勿論イタリア語ではない。
当然『イタリア語訛りのどこかの言葉』だったりもしない。
エリュトゥラーとは、ギリシャ語で赤…紅海の古い呼び名である。
そう、本日は、紅海周辺の探査である。
このエリュトゥラーという名前に聞き覚えがある、賢明な読者もおられると思う。
かの、著名な『エリュトゥラー海案内記』に記された、一連の航路は、すなわち、この紅海からインドに掛けての航路なのである。
この案内記によると、ローマ帝国と、古代のインドの間にはすでに季節風を利用した遠洋貿易が行われていたらしい。
そればかりか、インドを越えてセイロン、東南アジア、そして、かのチャイナすら記録されている。
ひょっとして、古代の人々の方が、現代に生きる私達よりも、遙か遠くのことをよく知っていたのではないかと、そう思わざるを得ない。
また、こういう交易のための重要な記録が、本になり、皆が読める形にされた、と言うのも驚きだ。
今、こういう航路の記録というのは国家的な秘密事項だ。
かのマゼラン提督の記録については、以前お話ししたが、航海の詳細な記録というのは、それだけで1つの財産、国1つひっくり返すこともあるものなのだ。
今であれば、血道を上げて奪い合う事になるだろう記録を、皆で共有していた古代の社会は、現代よりもずっと開かれた社会、だったのかもしれない。
ともあれ、調査……と言っても、たいしたことはない。
普段から通る航路であり、
簡単に調査は終わった。
紅海とは言うが、その海の色は世界のどの海よりも透明だ。
船の上から、色とりどりの魚が泳ぐ様が楽しめる。
もし、人が魚のように水の中で息が出来るのであれば、この紅海は非常に楽しい場所になるだろう。
さて…この紅海だが、実はヨーロッパからほど近い場所にある。
スエズまで行ってしまえば、陸路で海路までさほど遠くない。
現に、立ち寄ったマッサワの出航所の役人が、
もし、スエズが地中海とつながれば、貿易には良いのですが、と夢のようなことを言っていた。
それを聞いたドゥルシネアが、じゃあ運河でも掘ればいいじゃない、と、また突拍子もないことを言い始める。
私は苦笑いするしかなかったが、ふと、昔読んだチャイナの歴史書の話を思い出した。
昔、スイ、とか言う王朝のヤン=ティーという暴君が、国の南北を流れる大河をつなげる大運河を掘ろうと、民衆を駆り立てた。
結局、この工事の不満や、遠征の失敗が元で反乱が起き、国は滅びるのだが………。
もし、ドゥルシネアが何かの間違いで、どこかの王妃にでもなった日には、この女の考える突拍子もない事業で、民衆は喘ぐことになるのではないだろうか……。
………私はもう一度、ドゥルシネアの方を見た。
罪のない顔である。
そういう人間が、一番怖いかもしれない、つくづくそう思う。
ともあれ、スエズと地中海をつなぐような運河がもし出来るなら、それはとんでもない大事業になるだろう。
<ルール6『民を慈しむ』>
by Nijyuurou
| 2008-01-20 23:41