『あの航路』
2008年 10月 07日
セビリア。
晴天、東の風。
秋の太陽はあくまでも明るく、うっすらと汗の浮いた額を撫でていくアンダルシアの乾いた風が心地よい。
光と影のくっきりとしたこの土地も、人も、私の性に合っている。
…ジェノヴァで資金を稼いだ私は、一旦航路を西に取った。
潤沢になった操船資金を使い、大口の調査でもこなして、さらに一山当てようという寸法だ。
そして、こういうことは、やはり大きな都市に限る。
人の集まる大都市だからこそ、金になる依頼が転がって来るというものだ。
……冒険者ギルドの扉を開くと、やはり中は人でごった返していた。
大小様々な依頼が集まるこのギルドだが、やはり大都市のギルドは人が多い。
依頼の斡旋人の所に顔を見せると、彼は顔をほころばせて、待っていました、と声を掛けてきた。
私は内心ほくそ笑んだが、経験ある冒険者としてあくまで表には見せず、依頼人には威厳ある表情で頷き返す。
ところが、斡旋人は、マルコさんではなくて、ロクサーヌ様に依頼があります、と、私の横をすり抜けた。
ロクサーヌは鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をしていたが、依頼人の勢いに負けたように何度か頷いた。
何でも、世界周航を成し遂げ、タベラ枢機卿からサーカムライナーの称号を授けられた、ロクサーヌ船長に、是非に、との依頼があるのだという。
私はしばし、記憶を手繰った。
………そういえば、確かに世界周航をした時、船長名をロクサーヌの名前で登録して出航した気がする。
私は思わず口を三角にして口ごもり、斡旋人は酷く意地の悪い顔で、お話を進めてよろしいですか、とロクサーヌに聞いた。
ロクサーヌが頷くと、斡旋人は依頼内容について説明を始める。
つまり、南米最南端、ウシュアイア東の海峡についての調査である。
しかも、この依頼はフェルディナンドさん………マゼラン提督にまつわる依頼でもある。
私は即座に、勿論やるとも、と力強く頷いた。
だが、斡旋人は笑顔で、貴方には聞いてません、と言ってのける。
思わず斡旋人の首を絞め掛けたが、ハーフェズが私を羽交い締めにして、向こうはロクサーヌをご氏名なんだ、と楽しそうに笑った。
当のロクサーヌはちょっと困ったような笑顔で首をかしげていたが、やがてそれでは、お引き受けしましょう、と軽く頷いた。
ハーフェズが私を突き飛ばして、了解、船長、とロクサーヌに敬礼した。
たたらを踏んだ私に、ロクサーヌが、船長、それでよろしいですか、と尋ねてくる。
私は斡旋人とハーフェズに物騒な一瞥をくれつつ、それでかまいません、船長、と答えた。
ロクサーヌは一瞬困った顔をしたが、直ぐにすました表情に戻ったかと思うと、こほん、と一つ咳払いをして、では、マルコ君、ハーフェズ君、行きましょう、と私達を促し、軽い足取りで表へと出て行く。
私とハーフェズは顔を見合わせ、へい、船長…そう答えて彼女の後を追った。
<ルール・依頼の筋は守ろう>
晴天、東の風。
秋の太陽はあくまでも明るく、うっすらと汗の浮いた額を撫でていくアンダルシアの乾いた風が心地よい。
光と影のくっきりとしたこの土地も、人も、私の性に合っている。
…ジェノヴァで資金を稼いだ私は、一旦航路を西に取った。
潤沢になった操船資金を使い、大口の調査でもこなして、さらに一山当てようという寸法だ。
そして、こういうことは、やはり大きな都市に限る。
人の集まる大都市だからこそ、金になる依頼が転がって来るというものだ。
……冒険者ギルドの扉を開くと、やはり中は人でごった返していた。
大小様々な依頼が集まるこのギルドだが、やはり大都市のギルドは人が多い。
依頼の斡旋人の所に顔を見せると、彼は顔をほころばせて、待っていました、と声を掛けてきた。
私は内心ほくそ笑んだが、経験ある冒険者としてあくまで表には見せず、依頼人には威厳ある表情で頷き返す。
ところが、斡旋人は、マルコさんではなくて、ロクサーヌ様に依頼があります、と、私の横をすり抜けた。
ロクサーヌは鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をしていたが、依頼人の勢いに負けたように何度か頷いた。
何でも、世界周航を成し遂げ、タベラ枢機卿からサーカムライナーの称号を授けられた、ロクサーヌ船長に、是非に、との依頼があるのだという。
私はしばし、記憶を手繰った。
………そういえば、確かに世界周航をした時、船長名をロクサーヌの名前で登録して出航した気がする。
私は思わず口を三角にして口ごもり、斡旋人は酷く意地の悪い顔で、お話を進めてよろしいですか、とロクサーヌに聞いた。
ロクサーヌが頷くと、斡旋人は依頼内容について説明を始める。
つまり、南米最南端、ウシュアイア東の海峡についての調査である。
しかも、この依頼はフェルディナンドさん………マゼラン提督にまつわる依頼でもある。
私は即座に、勿論やるとも、と力強く頷いた。
だが、斡旋人は笑顔で、貴方には聞いてません、と言ってのける。
思わず斡旋人の首を絞め掛けたが、ハーフェズが私を羽交い締めにして、向こうはロクサーヌをご氏名なんだ、と楽しそうに笑った。
当のロクサーヌはちょっと困ったような笑顔で首をかしげていたが、やがてそれでは、お引き受けしましょう、と軽く頷いた。
ハーフェズが私を突き飛ばして、了解、船長、とロクサーヌに敬礼した。
たたらを踏んだ私に、ロクサーヌが、船長、それでよろしいですか、と尋ねてくる。
私は斡旋人とハーフェズに物騒な一瞥をくれつつ、それでかまいません、船長、と答えた。
ロクサーヌは一瞬困った顔をしたが、直ぐにすました表情に戻ったかと思うと、こほん、と一つ咳払いをして、では、マルコ君、ハーフェズ君、行きましょう、と私達を促し、軽い足取りで表へと出て行く。
私とハーフェズは顔を見合わせ、へい、船長…そう答えて彼女の後を追った。
<ルール・依頼の筋は守ろう>
by Nijyuurou
| 2008-10-07 23:09
| 『世界周航後日譚』